日本の食材、アメリカのスーパー

英語圏の「UMAMI」は雰囲気語:3つのうま味成分を日本の資料で確かめる

アメリカではumamiがメニューや菓子袋に「こくがある」程度の意味で使われています。グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸の発見史と食品の含有量、相乗効果、アメリカの表示ルールを、日本の資料で整理します。

黒い板の上に、昆布ひと切れ、かつお節の削り片少し、干ししいたけ2個が並べてある。

英語圏では「umami」という言葉が、レストランのメニューやソースの瓶、スナック菓子の袋にまで載っています。たいていは「savory(塩気のきいた)」や「rich(こくがある)」くらいの、ぼんやりした褒め言葉です。雰囲気を表す言葉のように扱われています。

日本の食品科学でのうま味は、原因となる物質に名前のついた、はっきりした味です。主役は3つ。アミノ酸のグルタミン酸、核酸のイノシン酸とグアニル酸です。どれも1908年から1957年にかけて日本の研究者が見つけました。グルタミン酸に核酸を合わせると、グルタミン酸だけよりずっと強いうま味になり、だしはその効果を使う代表的な方法です。

この記事では、英語圏で抜け落ちたり混同されたりしやすい点を中心に、発見の経緯、食品ごとの含有量、相乗効果、そしてアメリカの表示ルールを確かめます。

要点

成分分類代表的な日本の食材発見者年
グルタミン酸アミノ酸昆布池田菊苗1908
イノシン酸核酸かつお節小玉新太郎1913
グアニル酸核酸干ししいたけ国中明1957

うま味インフォメーションセンター(1982年設立。日本のうま味調味料の業界団体の支援を受けるNPO)は、こうまとめています。

「主なうま味成分はグルタミン酸やイノシン酸、グアニル酸です。」 — うま味インフォメーションセンター

欧米で認められるまで

同センターは、うま味を甘味、酸味、塩味、苦味と並ぶ独立した味としています。

「うま味は、甘味、酸味、塩味、苦味に続く5 番目の味です。」 — うま味インフォメーションセンター

センターによると、東京帝国大学の池田菊苗が研究を始めたのは1907年の春です。昆布だしの味が、海外で出会ったトマトやアスパラガス、肉、チーズの味と共通することに気づき、乾燥昆布からグルタミン酸を取り出しました。センターの解説図には、昆布12kgから30gのグルタミン酸が得られたとあります。池田はこの味を「うま味」と名づけ、1908年4月にグルタミン酸塩を主成分とする調味料の特許を出願、同年7月25日に登録されました。味の素の社史によると、これが「味の素」となり、1909年に発売されています。

1907年とする資料もあります。フジッコの昆布の食育資料は発見そのものを1907年としています。センターは研究開始を1907年春、発見を特許の年の1908年としているので、早い年はそこから来ているのかもしれませんが、フジッコは根拠を書いていません。

日本の外で認められるまでには長い時間がかかりました。栗原堅三氏による2015年の総説(BioMed Research International)は、うま味は「欧米では長いあいだ認められてこなかった」とし、5番目の基本味として国際的に認められたのは「1900年代後半」だと書いています(英語の原文を訳したもの)。総説は、舌がうま味を感じる仕組みの解明に役立った2000年と2002年の受容体研究を挙げています。

イノシン酸とグアニル酸:英語圏の要約が省くところ

池田はかつお節にも関心を持ち、弟子の小玉新太郎に研究を任せました。小玉は1913年、かつお節のうま味がイノシン酸塩によることを示します。味の素の社史によると、構造がはっきりせず分離も難しかったため、イノシン酸が調味料として商品になるまでには数十年かかりました。

3つ目はヤマサ醤油から生まれました。1957年、同社の研究者、国中明がグアニル酸塩にうま味があることを見つけます。栗原氏の総説は発見を1957年とし、国中の1960年の論文を引いているので、どちらの年も見かけます。

グアニル酸としいたけを結びつけたのが誰かは、資料によって違います。うま味インフォメーションセンターは、のちに中島寛郎がしいたけのうま味成分であることを示したとしています。味の素の社史は、国中についての記述のなかで、グアニル酸はのちに干ししいたけのうま味成分と判明したと書き、ほかの名前を挙げていません。国中の功績と読める書き方です。英語版 Wikipedia の「Umami」などの英語の要約は、これを「しいたけに含まれる」グアニル酸の1957年の発見としてひとまとめにしています。略し方としては無理はありませんが、日本の資料は2段階で語っていて、しかも2段階目の担い手で一致していません。

何に多く含まれるか

うま味インフォメーションセンターが公開している含有量です。単位は100gあたりのmg。センターは、個体差や季節で幅があるため範囲で示した値があるとしています。空欄はセンターに数値がないという意味で、ゼロとは限りません。

食品グルタミン酸イノシン酸グアニル酸
羅臼昆布*2,290〜3,380
真昆布*1,610〜3,050
干ししいたけ1,060150
生しいたけ70
かつお節30〜40470〜700
煮干し40〜50350〜800
干し海苔170〜1,3501〜403〜80
濃口醤油約980〜1,680
淡口醤油約730
たまり醤油約1,720
みそ*200〜700
トマト246
パルミジャーノ・レッジャーノ(24か月)1,680
パルミジャーノ・レッジャーノ(48か月)2,220
チェダー(アメリカ産、1年)173
チェダー(アメリカ産、10年)718
モッツァレラ0
アンチョビ6300
鶏肉20〜50150〜230
豚肉10230
牛肉1080

*センターのまとめの表から。この表には単位も測定の出典も書かれておらず、昆布とみそのページはグラフでしか値を示していません。ほかの行は、mg/100gと明記された食品ごとのページによります。両方に値がある食品では、干ししいたけ、かつお節、煮干し、海苔、アンチョビ、肉類の数値が一致するため、まとめの表もmg/100gと読みました。トマト、チーズ、醤油は食い違います。まとめの表は一つの値か幅(トマト150〜250、醤油400〜1,700)ですが、食品ページはトマトを246とし、チーズは熟成期間別、醤油は種類別に分けています。ここでは食品ページの値を使いました。醤油のページは参考値としています。(醤油の種類については日本の醤油は一種類ではないをご覧ください。)

傾向ははっきりしています。

  • グルタミン酸は植物、海藻、熟成・発酵食品に多い。 昆布、トマト、熟成チーズ、醤油、みそが上位です。
  • イノシン酸はおもに肉と魚。 かつお節、煮干し、豚肉が多く、昆布やトマトには値がありません。
  • グアニル酸はきのこの成分。 表では干ししいたけが際立っています。

熟成や加工で数値は変わります。センターによると、トマトは赤く熟すほどグルタミン酸が増え、チーズは熟成が長いほどたんぱく質が分解されて遊離アミノ酸が増えます。48か月のパルミジャーノが24か月を、10年のチェダーが1年を上回るのはそのためです。かつお節は焙乾とかび付けでイノシン酸が増えます(かつお節は発酵食品)。干ししいたけは乾燥の過程でグアニル酸ができ、水分が抜けてグルタミン酸も濃縮されます。センターのきのこのページは、生のきのこにはグアニル酸がわずかしかなく、加熱で増えるといわれる、と含みを持たせた書き方をしています。

相乗効果と「7〜8倍」という数字

相乗効果を見つけたのも、ヤマサの国中明です。

「国中はグルタミン酸塩とイノシン酸塩またはグアニル酸塩の間に、大きな相乗作用があることを発見しました。」 — うま味インフォメーションセンター

味の素の社史も、核酸をグルタミン酸ナトリウムと合わせるとうま味が相乗的に高まると書いています。

効果の大きさは配合で変わります。センターのグラフは、山口静子氏の1967年の研究(Journal of Food Science)にもとづき、グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸の混合物でイノシン酸の割合とうま味の強さの関係を示しています。イノシン酸を加えると強さは急に上がり、そのあとは、

「さらにIMPの割合を増やすと相乗作用は減少します。」 — うま味インフォメーションセンター

センターも栗原氏の総説も効果の大きさを数字で示していますが、本文ではその数字がどの配合比のものかを書いていません。配合比で結果が変わる以上、ここでは倍率を引用しません。英語のページには条件つきで倍率を書くものがあります。イギリスの日本食材通販 SushiSushi は「1対1の比率では、感じるうま味はそれぞれ単独の7〜8倍の強さになる」としています(英語の原文を訳したもの)。ただしこの比率について研究を挙げておらず、私たちが読んだ日本語の資料でも1対1という条件は確認できませんでした。未確認の数字として扱ってください。

数字がなくても結論は変わりません。グルタミン酸の多い食材と、イノシン酸かグアニル酸の多い食材を組み合わせることです。

和食の組み合わせ

組み合わせグルタミン酸核酸
合わせだし昆布かつお節(イノシン酸)
精進だし昆布干ししいたけ(グアニル酸)
煮干しだしの味噌汁みそ煮干し(イノシン酸)
すき焼き醤油、野菜牛肉(イノシン酸)、きのこ(グアニル酸)

センターは、昆布とかつお節の一番だしを、うま味の相乗効果を最も効果的に生かした調理法で、和食の基本だとしています。日本のメーカーのだしの取り方と、西洋の煮出すストックとの違いはだしは「フィッシュストック」ではないで書きました。

精進だしについて、センターは干ししいたけを冷水で戻す理由を説明しています。グアニル酸を作る酵素は60〜70℃前後でよく働き、分解する酵素は45〜50℃前後でよく働きます。常温ではグアニル酸が分解されてしまうので、冷蔵庫で戻すよう勧めています。

センターは、みそにはグルタミン酸が含まれるので、イノシン酸の多い煮干しだしで味噌汁を作ると相乗効果が生まれるとも書いています(みその種類、味噌汁はスプーンで飲まない)。すき焼きについては、肉のページで、牛肉のうま味に野菜やきのこ、醤油のうま味を重ねる代表的な日本料理としています。センターは成分名を挙げていないので、表のすき焼きの行は、この記事の含有量をもとに当サイトが当てはめたものです(すき焼きの関東風と関西風)。

日本だけの話ではありません。同じセンターは、肉や魚に添えるトマトソースもグルタミン酸とイノシン酸の組み合わせだと指摘しています。日本が加えたのは科学のほうで、3つの成分とその相乗効果を日本の研究者が突き止めました。

うま味調味料と、アメリカの表示

それぞれの成分は調味料になりました。

グルタミン酸ナトリウムは池田の1908年の特許から生まれ、「味の素」は1909年に発売されました。使うかどうか、日米の表示でどう扱われるかは「MSG不使用」と日本で取り上げています。

グルタミン酸と核酸の組み合わせも商品になりました。味の素の社史によると、同社は1960年10月11日に、世界初の複合調味料とする「味の素プラス」を発売。ヤマサはイノシン酸ナトリウム12%の「フレーブ」を販売し、味の素は1962年11月21日、グルタミン酸ナトリウムをイノシン酸ナトリウム12%で包んだ「ハイ・ミー」を発売しました。家庭用の「味の素」自体にも核酸が加わり、1965年からイノシン酸ナトリウム1%、1968年に5′-リボヌクレオチドナトリウム1.5%、1984年に2.5%になったと社史は書いています。現在の日米の配合は確認していないので、買うときは表示を見てください。

アメリカの表示では、成分ごとに名前で書かれます。

  • Monosodium glutamate(グルタミン酸ナトリウム)。 FDAは添加されたMSGを「一般に安全と認められる(GRAS)」ものとし、原材料に「monosodium glutamate」と書くよう求めています。
  • Disodium inosinate(イノシン酸二ナトリウム)、disodium guanylate(グアニル酸二ナトリウム)。 どちらも連邦規則に載った食品添加物です(21 CFR 172.535、172.530)。規則はグアニル酸二ナトリウムを「flavor enhancer(風味増強剤)」、イノシン酸二ナトリウムを「flavoring adjuvant(香味補助剤)」としています。

アメリカの小売店 H-E-B の販売ページでは、味の素の「ほんだし」の原材料に monosodium glutamate、dried bonito tuna、disodium inosinate が並んでいます。グルタミン酸と核酸がひとつの商品に入っているわけです。(小売店の掲載情報で、味の素の米国向けページは見つかりませんでした。配合は変わることがあるので、商品の表示を確かめてください。)

日本の表示はここが違います。大阪府の表示の手引きによると、食品表示基準(別表第7)には「調味料(アミノ酸)」「調味料(核酸)」などの一括名があり、それぞれ「等」をつけた形もあります。厚生労働省のQ&A(1991年、2007年一部改正)は、アミノ酸とほかの種類の調味料を混ぜたものは「調味料(アミノ酸等)」と表示するとしています。アメリカでは成分名がそのまま並びますが、日本では一括名でまとめて表示できるわけです。

よくある質問

英語圏ではumamiはどんな意味で使われていますか。 メニューや商品では「savory」「rich」に近い、こくや深みを表す漠然とした言葉として使われがちです。日本の食品科学では、グルタミン酸や核酸という具体的な物質による基本味です。

うま味はいつ海外で基本味と認められたのですか。 栗原堅三氏の2015年の総説によると、欧米では長く認められず、5番目の基本味として国際的に認められたのは1900年代後半です。2000年と2002年の受容体研究が、舌で感じる仕組みの説明を後押ししました。

相乗効果で「7〜8倍」になるというのは本当ですか。 倍率は配合比で変わります。うま味インフォメーションセンターによると、イノシン酸の割合を増やしすぎると相乗作用は減ります。英語のページにある「1対1で7〜8倍」という条件は、私たちが読んだ日本語の資料では確認できませんでした。

アメリカと日本で、うま味調味料の表示はどう違いますか。 アメリカでは monosodium glutamate、disodium inosinate、disodium guanylate と成分名で書かれます。日本では「調味料(アミノ酸等)」のような一括名で表示できます。

この記事の調べ方

歴史、含有量、調理の原則は、日本語の資料によっています。うま味インフォメーションセンターの池田菊苗、核酸系うま味物質の発見、うま味を多く含む食品のページ、味の素の社史、コトバンクの世界大百科事典の「精進だし」です。年代は栗原堅三氏の2015年の総説と照らし合わせました。グアニル酸としいたけを結びつけた人物や、池田の発見を1907年とするか1908年とするかのように、資料どうしが食い違う点はその旨を書いています。アメリカのルールはFDAと連邦規則集によります。日本語資料からの引用は短くとどめています。作り方や健康効果の主張は含みません。含有量はうま味インフォメーションセンターの公表値で、当サイトが測ったものではありません。

参考資料

うま味インフォメーションセンター:

日本のメーカー、行政、事典:

学術:

アメリカの行政:

英語圏の例と販売ページ:

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