安全と表示

「No MSG」と「化学調味料不使用」:MSG表示をめぐる日米の規則

アメリカではMSGは「中華料理店症候群」と結びつき、「No MSG」表示が売り文句になっています。FDAはこの表示をどう制限しているのか。2022年の消費者庁ガイドラインと並べて、日米の規則と安全性評価を確かめます。

暗い色の台の上に、細かな白いMSGの結晶を盛った小さな白い皿と、細長い乾燥昆布が並んでいる。

アメリカでMSG(グルタミン酸ナトリウム)といえば、まず「中華料理店症候群(Chinese Restaurant Syndrome)」という言葉が出てきます。食品のパッケージには「No MSG」と書かれたものもあります。日本でも同じような議論はありますが、こちらの争点は言葉でした。長く「化学調味料」と呼ばれ、メーカーは1980年代後半から「うま味調味料」と呼ぶようになりました。それでも2022年の時点で、「化学調味料不使用」はネット上でよく見かける言い回しだったと J-CAST ニュースは伝えています。

結論から言うと、日米どちらの規制当局も、MSGを使用が認められた食品添加物として扱っています。そして両国とも、同じ種類の表示に目を向けています。MSGや調味料を「使っていない」と書きながら、別の原材料からグルタミン酸などのアミノ酸をとっている商品です。FDA(アメリカ食品医薬品局)は、そうした食品は「『No MSG』や『No added MSG』と表示できない」と言い切っています。日本の2022年のガイドラインは、この種の表示を誤認のおそれがあるものとして挙げ、「化学」という言葉そのものにも疑問を示しています。

要点

  • MSGは日本で生まれました。 池田菊苗が乾燥昆布から研究を進め、1908年7月に特許を取得。「味の素」は1909年5月に発売されました。
  • 安全性の位置づけ: FDAは、食品に加えるMSGを「一般に安全と認められる」(GRAS)としています。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は1987年、一日摂取許容量(ADI)を「特定しない」としました。
  • アメリカの「No MSG」: FDAによると、加水分解植物性たんぱくや酵母エキスのように、遊離グルタミン酸を天然に含む原材料を使った食品は「No MSG」「No added MSG」と表示できません。
  • 日本の「化学調味料不使用」: 2022年の消費者庁のガイドラインは、「化学」「天然」などの言葉を使った添加物の表示は適切とはいえないとし、アミノ酸を含むエキスを使った食品で「調味料(添加物)不使用」とする表示も問題例に挙げています。
  • 日本の表示では、 MSGは「調味料(アミノ酸)」という一括名で書かれることがあります。

MSGのはじまり:池田菊苗、昆布、味の素

この経緯は日本の読者にはおなじみなので、要点だけにします。うま味インフォメーションセンターは、池田の研究の始まりをこう書いています。

池田は乾燥したコンブを出発材料としました。 — うま味インフォメーションセンター

同センターによると、発見は1908年です。きっかけは1907年春の、だし昆布ひと束でした。1908年4月に特許を出願し、同年7月25日に登録されています。味の素の社史は、その先をこう記しています。

時期出来事(味の素グループの社史による)
1908年7月池田が調味料製造法の特許を取得
1908年9月二代鈴木三郎助が池田と特許の共有契約を結び、事業化を決める
1908年12月グルタミン酸ナトリウムの最初の試作品ができる
1909年3月逗子工場で製品が完成
1909年5月一般販売を開始

社史によると、初期の製法は原料を塩酸で分解するものでした。FDAは英語のページで別の製法を挙げ、「でんぷん、テンサイ、サトウキビ、糖蜜を発酵させてつくる」と説明しています。

グルタミン酸はうま味成分のひとつにすぎず、かつお節にはイノシン酸、干ししいたけにはグアニル酸があります。詳しくはうま味の種類をどうぞ。

「中華料理店症候群」:1968年の投書と、その後

1968年4月、ロバート・ホー・マン・クウォック(Robert Ho Man Kwok)という医師が、医学誌『New England Journal of Medicine』に「Chinese-restaurant syndrome」という題で投書しました。科学史研究所(Science History Institute)の雑誌『Distillations』によると、動悸がし、そのあと脱力感としびれを感じたという内容です。その後、新聞は同誌の言う「いわゆる中華料理店症候群についての、息せき切った記事」を次々に載せました。同じ記事は、アメリカ人がパニックになったのは「MSGが中華料理と結びつけられたときだけだった」と論じています(いずれも英語の原文を訳したもの)。

その後の評価は次のとおりです。

  • FDA は、MSGを含む食品を食べたあとに頭痛や吐き気などが出たという報告を受けてきたものの、「MSGが原因だと確認できたことは一度もない」としています。FDAが1990年代に米国実験生物学会連合(FASEB)に依頼した検討では、MSGは安全と結論づけつつ、敏感な人の一部が、食べ物なしで3グラム以上をとったときに、軽く短時間の症状が出ることがあると指摘しました。FDAは、MSGを加えた食品のふつうの1食分に含まれる量は0.5グラム未満だとも書いています。
  • 2016年の系統的レビュー(Obayashi・Nagamura、『The Journal of Headache and Pain』)は、MSGと頭痛についての人での研究を調べました。筆頭著者の Yoko Obayashi 氏は、ブリュッセルの国際グルタミン酸技術委員会(IGTC)に所属し、その会員であるMSGメーカーに勤めています。論文の利益相反の記載によると、掲載料はIGTCが払い、第二著者は利益相反なしと申告しています。MSGを食事と一緒に与えた研究では、ひとつの研究の女性群を除き、頭痛の発生に有意な差は見られませんでした。著者らは、濃いMSG溶液を使った研究では盲検が十分でなかった可能性があるとし、因果関係があるかどうかを決めるにはさらに研究が必要だと結論しています。
  • メリアム・ウェブスター英英辞典 は、「Chinese restaurant syndrome」に「古い言い方。不快に受け取られることがある」という注記をつけています。語法の注では、その後の研究ではっきりした関連は確かめられておらず、医学文献では「MSG symptom complex(MSG症状複合)」が使われると説明しています。

だからといって、MSGを避ける人が間違っているわけではありません。FDA自身が、敏感な人の一部に短時間の症状が出ることを認めています。正確な表示がいちばん大事なのは、表示をよく読む人にとってです。

アメリカ:GRAS、名前での表示、「No MSG」

FDAのMSGについての質疑応答ページは、アメリカの規則をこうまとめています(英語の原文を訳したもの)。

  • 位置づけ。 「FDAは、食品へのMSGの添加を『一般に安全と認められる』(GRAS)とみなしている」。
  • 加えたMSGの表示。 MSGを加えた食品は、原材料欄に「monosodium glutamate」と書かなければなりません。「『香辛料・香料(spices and flavoring)』としてまとめて書くことはできない」。
  • 遊離グルタミン酸を天然に含む原材料。 FDAが挙げる例は、加水分解植物性たんぱく、自己消化酵母、加水分解酵母、酵母エキス、大豆エキス、分離たんぱく、「さらにトマトやチーズ」です。これらはそれぞれの名前で表示され、グルタミン酸を含むと書く必要はありません。
  • 「No MSG」の表示。 こうした原材料をひとつでも使った食品は、「パッケージに『No MSG』や『No added MSG』と表示できない」。

つまりFDAの書き方では、MSGを加えていないというだけでは「No MSG」とは書けません。遊離グルタミン酸を天然に含む原材料を使った食品も、この表示はできないのです。

日本:「化学調味料」から「うま味調味料」へ

呼び名

『デジタル大辞泉』は、化学調味料を「うま味調味料の旧称」としています。コトバンクに収められた平凡社『百科事典マイペディア』は、切り替えの時期と理由をこう書いています。

消費者の天然志向に対応して1980年代後半から,メーカー側は〈うま味調味料〉という名称を採用しはじめた。 — 百科事典マイペディア(平凡社、コトバンク)

公的な基準からも、この言葉は消えました。消費者庁によると、「化学調味料」はかつてJAS(日本農林規格)で使われていましたが、1989年に削除され、食品表示基準では一度も使われていません。

旧称の由来について、2022年の J-CAST ニュースの記事は、日本うま味調味料協会と味の素の話として、1950年代半ばにNHKの料理番組で生まれたと伝えています。公共放送なので商品名を出せなかったためだといいます。協会自身のページは開けなかったため、これは又聞きの情報として扱ってください。

この言葉はいまも重みを持っています。J-CAST によると、2022年2月、TBSの朝の生放送で、お笑い芸人がパン屋のパンのおいしさを「化学調味料」のおかげだと冗談を言い、約10分後にアナウンサーが「うま味調味料」と訂正しました。

2022年の「無添加」表示ガイドライン

2022年3月30日、消費者庁は「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を、食品表示基準Q&Aの別添として定めました。「添加物不使用」という表示が、食品表示基準で禁じられた誤認を招くものかどうかを判断するための物差しで、こうした表示を一律に禁止するものではないとしています。問題になりうる表示を10の類型に分け、事業者には2024年3月末までに表示を見直すよう求めました。

MSGに関係するのは、10類型のうち3つです。

類型ガイドラインが示す内容MSGとの関係
1何が入っていないのかを書かない、単なる「無添加」表示あいまいな「無添加」からは、グルタミン酸について何もわからない
2「人工」「合成」「化学」「天然」など、食品表示基準に定義のない用語を「不使用」「無」と組み合わせる表示例は「人工甘味料不使用」。「化学調味料不使用」は例に挙がっていないが、同じ項で「化学調味料」という用語を取り上げている
5同じか似た機能を持つ原材料を使いながら、その添加物を使っていないとする表示例は、アミノ酸を含むエキスを使った食品に「調味料(添加物)不使用」と書くもの

類型5は、FDAの規則にいちばん近いものです。どちらも、別の原材料がグルタミン酸などのアミノ酸を補っているのに、調味成分が入っていないとする表示を対象にしています。違いは強さです。FDAは禁止を明言し、日本のガイドラインは誤認かどうかを判断する基準を示しています。

「調味料(アミノ酸等)」の読み方

日本の表示では、添加物は原則として物質名で、重量の多い順に書きます。一部の種類は一括名で書くこともでき、大阪府の表示の手引きによると「調味料」はそのひとつです。札幌市の解説では、調味料はアミノ酸、核酸、有機酸、無機塩の4グループに分かれ、2グループ以上を使うときは主なものを書いて「等」を添え、「調味料(アミノ酸等)」とします。食品表示基準についての国の通知の一括名の別添では、L-グルタミン酸ナトリウムはアミノ酸系の調味料に入っています。

一括名からは、どの物質を使ったかはわかりません。旧厚生省の質疑応答(1991年、2007年一部改正)は、L-グルタミン酸ナトリウムのように調味料として使う単一のアミノ酸は、添加物として表示が必要だとしています。同じ質疑応答で、動植物のたんぱく質を分解しただけで個々のアミノ酸を分離していないアミノ酸液は、肉エキスと同じく食品として扱い、添加物の表示はいらないとしています。アメリカでいう加水分解植物性たんぱくに、おおむね当たるものです。

実際の商品でも違いが見えます。日本のキユーピーマヨネーズは「調味料(アミノ酸)」と表示しています。一方、Kewpie USA の公式オンラインストアにある「Product of USA」のボトルは、「monosodium glutamate」と表示しています(詳しくはキユーピーマヨネーズの記事で)。味の素の「ほんだし」は、原材料に酵母エキス、添加物に「調味料(アミノ酸等)」を挙げています。

安全性評価:各機関の見解

機関見解年
FDA(アメリカ)加えるMSGは「一般に安全と認められる」(GRAS)FDAのページに年の記載なし
JECFA(FAO/WHO)ADIは「特定しない」。グルタミン酸と、そのアンモニウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム塩をまとめたグループADI1987年(第31回会議)
食品安全委員会(日本)2011年の資料の時点で独自の評価なし。その後見つかった評価は、特定の遺伝子組換え生産菌によるMSGについてのもの2011年、2014年以降

JECFAは1973年の評価では数値を定めていました。日本では、MSGは食品衛生法の指定添加物です。食品安全委員会が自ら行うリスク評価の候補を並べた2011年の資料には、こうあります。

食品安全委員会による評価状況:なし。 — 食品安全委員会、2011年の企画等専門調査会資料

同委員会はその後、特定の遺伝子組換え微生物の株でつくったMSGを評価しています。たとえば2014年の、味の素が使う株についての評価書案です。この評価は従来法でつくったMSGと比べたもので、摂取量の数値は定めていません。ほかの株についても同様の評価書案が出ています。MSGそのものについての委員会の一般的な評価は、見つかりませんでした。

日米の表示規則を並べると

アメリカ日本
規則を定めるところFDA消費者庁(食品表示基準と2022年のガイドライン)
加えたMSGの書き方名前で「monosodium glutamate」物質名、または「調味料(アミノ酸)」などの一括名
天然のグルタミン酸を含む原材料(たんぱく加水分解物、酵母エキス)それぞれの名前で表示たんぱく質を分解したアミノ酸液は添加物でなく食品扱い(1991年の質疑応答)。酵母エキスは、ほんだしなどでは添加物より前の原材料に書かれる
そうした原材料を使ったときの「MSG不使用」型の表示不可:「『No MSG』や『No added MSG』と表示できない」誤認のおそれがある例として挙げられる(ガイドライン類型5)。物差しであって一律禁止ではない
「化学」「天然」などの言葉FDAのMSG質疑応答ページでは扱っていない添加物の表示には適切でないとされる(ガイドライン類型2)

よくある質問

アメリカの「No MSG」表示は、日本の「化学調味料不使用」と同じ意味ですか。 同じではありません。FDAは、酵母エキスや加水分解植物性たんぱくなど、遊離グルタミン酸を天然に含む原材料を使った食品には「No MSG」「No added MSG」の表示を認めていません。日本のガイドラインは、似た表示を誤認のおそれがあるものとして挙げていますが、判断の基準であって一律の禁止ではありません。表示そのものは、どちらの国でもメーカーの言い分です。

「中華料理店症候群」は本当にあるのですか。 この言葉は、1968年の『New England Journal of Medicine』への投書から広まりました。FDAはMSGが原因だと確認できなかったとしており、2016年の系統的レビューでは、MSGを食事と一緒にとった場合、ひとつの研究の女性群を除いて頭痛に有意な差はありませんでした(筆頭著者はMSGメーカーの社員です)。メリアム・ウェブスターは、この言葉を「古い言い方。不快に受け取られることがある」としています。

MSGは安全ですか。 FDAは加えるMSGを「一般に安全と認められる」とし、JECFAは1987年にADIを「特定しない」としました。FDAは、敏感な人の一部が食べ物なしで3グラム以上をとると、軽く短時間の症状が出ることがあるとも書いています。当サイトは各機関の見解を紹介するもので、医学的な助言ではありません。

「調味料(アミノ酸等)」と書いてあれば、MSGが入っているのですか。 そうとは限りません。アミノ酸系の調味料に、ほかのグループが少なくともひとつ加わっていることを示す一括名です。MSGはアミノ酸系の調味料ですが、表示からは物質名まではわかりません。知りたいときは、その商品についてメーカーの情報を確かめてください。

この記事の調べ方

主に日本語の一次資料を使いました。消費者庁のガイドラインと表示の通知、大阪府と札幌市の手引き、旧厚生省の質疑応答、食品安全委員会の資料、味の素、キユーピー、うま味インフォメーションセンター、コトバンクです。アメリカの規則はFDA、国際的な評価はWHOのJECFAデータベースによります。「中華料理店症候群」の経緯は、査読を経たものの業界とつながりのある系統的レビュー(利益相反は本文に記しました)、科学史研究所、メリアム・ウェブスターによっています。「化学調味料」という言葉の由来は J-CAST ニュースを通した又聞きです。日本語資料からの引用は原文のまま短くとどめ、英語資料からの引用は当サイトが訳しました。この記事は各機関の見解を紹介するもので、医学的な助言ではありません。

参考資料

国と自治体:

国際機関とアメリカ政府:

メーカーと業界:

辞書:

研究と報道:

「安全と表示」のほかの記事