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キユーピーの酢は「米酢」? 英語圏の誤解とアメリカ製キユーピー

英語圏では「キユーピーの味の秘密は米酢」とよく書かれます。日本のキユーピーの酢はりんご果汁やモルトなどからつくる専用酢で、砂糖も入っていません。米酢と砂糖が入っているのはアメリカ製のほうです。

小さな白い器に高く絞り出した、濃い淡黄色のマヨネーズ。横に半分に切った半熟卵がある。

英語圏でキユーピーマヨネーズを紹介するページのいくつかは、味の理由を「卵黄と米酢」と説明し、りんご酢も一緒に使っているとよく書きます。手作りの「再現レシピ」にもそれにならうものがあり、たとえば Tasting Table のレシピは米酢、砂糖、うま味調味料(MSG)を使います。

日本のキユーピーの説明は違います。同社は1962年にマヨネーズ専用の酢をつくる会社を別に設け、りんご果汁やモルトなどから酢を醸造したとしています。当時の日本の酢は米などを原料にした和風の酢が中心で、マヨネーズに合う酢が手に入りにくかった、というのがキユーピーの説明です。日本の原材料表示には砂糖もありません。

ただし話には続きがあります。アメリカのキユーピー(Kewpie USA)は「Product of USA」と表示したアメリカ製の商品も売っていて、その原材料には本当に米酢、砂糖、MSGが入っています。英語のページがまったくの誤りというわけではありません。別々の2つの商品を、1つのものとして説明しているのです。

要点

  • 日本のキユーピー(キユーピー株式会社の450g)の原材料は、食用植物油脂、卵黄、醸造酢、食塩、香辛料、調味料(アミノ酸)、香辛料抽出物です。酢は、りんご果汁やモルトなどからつくる自社の「マヨネーズ専用酢」です。砂糖も米酢も表示になく、卵白も原材料には入っていません(ただしアレルゲンとして卵白を含むとの注記があります)。
  • アメリカ製のキユーピー(Kewpie USA が「Product of USA」とする12 fl oz)の原材料は、大豆油、卵黄、水、4種類の酢(蒸留酢、米酢、ホワイトバルサミコ酢、りんご酢)、食塩、MSG、砂糖、マスタード粉、EDTAカルシウム二ナトリウム、天然香料です。
  • どちらも全卵ではなく卵黄を使います。これはキユーピーの選択で、日米どちらの規格も卵黄だけとは決めていません。

日本の表示を確かめる

キユーピーの公式商品ページにある450gの原材料表示は次のとおりです。

食用植物油脂(国内製造)、卵黄、醸造酢、食塩、香辛料/調味料(アミノ酸)、香辛料抽出物、(一部に卵・大豆・りんごを含む)

油は、菜種油や大豆油などを合わせているとキユーピーは説明しています。目を引くのはアレルゲン表示のりんごで、同社が説明する酢と合っています。砂糖はなく、卵白も原材料には入っていません。ただ商品ページには「本品はアレルゲンとして卵白を含みます」との注記があり、殺菌した卵を使っていても、生卵と同じようにアレルギーに注意するよう書かれています。

栄養成分表示は約大さじ1杯(15g)あたりで、100kcal、脂質11.2g、たんぱく質0.4g、炭水化物0.1g、食塩相当量0.3gです。原料のページの図では、おおよその割合を植物油70%、卵・酢・調味料・香辛料が30%としています。


酢をわざわざ自社でつくった理由

英語圏の「米酢」説が見落としているのはここです。キユーピーは原料のページでこう説明しています。

かつて、日本で製造されている酢は米などを原料にした和風の酢が主体で、洋風調味料であるマヨネーズが合う酢の入手は困難でした。 — キユーピー「マヨネーズの原料」

同社によると、その答えとして1962年に専用の酢の会社をつくりました。いまのキユーピー醸造です。キユーピーの英語の沿革は、最初は西府産業という名前で、「キユーピーマヨネーズ専用の酢をつくるため」に設立されたと書いています(英語の原文を訳したもの)。試行錯誤の末、独自の製法でリンゴ果汁やモルトなどから醸造した「マヨネーズ専用酢」ができた、という説明です。

つまりこの酢は、米酢を変えたものではありません。キユーピーの説明では、当時の日本の酢は米などを原料にした和風の酢が中心で、マヨネーズに合う酢が手に入りにくかったため、別の酢をつくったのです。注意点が2つあります。

  • 「など」とあるので、りんご果汁とモルトは名前が挙がった原料で、それだけとは限りません。
  • 表示そのものは「醸造酢」とだけあり、原料は書かれていません。りんごはアレルゲン表示に出てくるだけです。

キユーピーは、酢と食塩には容器のなかで細菌が増えるのを抑える働き、つまり保存の効果もあるとしています。英語圏のレシピが米酢を別の用途に使うと何が起きるかは、「みりんの代わりに米酢」は誤りで書きました。


卵黄だけ、1本に3.6個

キユーピーは卵黄の量も示しています。

キユーピー マヨネーズは卵黄を使っていて、「450gのマヨネーズには卵黄が3.6個」入っています。 — キユーピー「マヨネーズの原料」

マヨネーズ約125gで卵黄1個、大さじ1杯なら卵黄の10分の1あまりになります(キユーピーの数字からの当サイトの計算です)。

日本語のページは「卵黄タイプ」のマヨネーズと説明していますが、「卵白は使わない」と文字どおり書いた一文は見当たりませんでした。原材料には卵黄だけが挙がっていますが、商品ページのアレルゲンの注記には卵白を含むとあります。アメリカのサイトははっきり「卵黄だけを使い、卵白は使わない」と書いています(英語の原文を訳したもの)。

2020年の統合報告書によると、創業者の中島董一郎は1910年代に英米で約3年を過ごし、オレンジママレードとマヨネーズに出会いました。1925年、栄養のある卵黄タイプとしてキユーピーマヨネーズを発売し、2025年のニュースリリースはこれを日本で初めて製造・販売されたマヨネーズとしています。

同じ2025年のリリースでは、低分子ペプチドが卵黄型マヨネーズのコクに寄与する可能性を報告しています。卵黄の量が約2.3倍違う試作品を比べたもので、結論ではなく可能性として示しています。

卵黄だけというのは、キユーピーのなかでも絶対ではありません。2026年初め、業界紙(Impress Watch、日本食糧新聞)は、1991年に家庭用で発売された、カロリーを抑えた「キユーピー ハーフ」が、全卵から主力品と同じ卵黄タイプに切り替わると報じました。キユーピー自身のリリースは見つかりませんでした。日本にも、キユーピー自身のものを含めて、全卵を使うマヨネーズタイプの商品があったことになります。


うま味調味料と砂糖

うま味調味料。 日本の表示は「調味料(アミノ酸)」で、これは一括名なので、どのアミノ酸かは書かれていません。アメリカの表示はもっと具体的で、**monosodium glutamate(グルタミン酸ナトリウム)**と書いています。Kewpie USA の FAQ も、アメリカ製の12 ozの商品にMSGが入っていることを認めています。

砂糖。 日本の表示にはありません。キユーピーの原料のページは、ほかの調味料に比べて糖質が少ないと書いているだけです。アメリカ製には砂糖が入っています。


アメリカで売られているキユーピーは別のレシピ

Kewpie USA の商品ページは、12 fl oz(約355mL)のマヨネーズを「Product of USA」とし、「カリフォルニアでつくる新しい主力版(New Mainstream Version Made in California)」と呼んでいます。それぞれの公式ページにある原材料を並べます。

日本(450g、キユーピー株式会社)アメリカ(12 fl oz、Kewpie USA)
油食用植物油脂(キユーピーによれば菜種油、大豆油など)大豆油
卵卵黄卵黄
水表示なし(日本の表示では加えた水は慣行として省かれる)表示あり
酢醸造酢(りんご果汁やモルトなどからの専用酢)蒸留酢、米酢、ホワイトバルサミコ酢、りんご酢
砂糖表示なし表示あり
うま味調味料調味料(アミノ酸)グルタミン酸ナトリウム(MSG)
香辛料香辛料、香辛料抽出物マスタード粉、天然香料
その他—EDTAカルシウム二ナトリウム(「風味を守るため」)

Kewpie USA はケージフリー卵の商品も売っていて、西海岸のコストコ限定だとしています。そのページでは「キユーピーの元祖のレシピ」と呼び、「日本でつくる商品と同じように、独自に合わせた酢」を使うと書いています(英語の原文を訳したもの)。ただ、このページに原材料の一覧はなく、12 fl ozの表示と日本の表示では、挙がっている酢が違います。

古い英語の記事は、別の配合を書いている可能性があります。 2024年の Chowhound の記事は、アメリカ版はMSGを使わず酵母エキスを使っていると書き、Insanely Good Recipes も同じことを書いています。2026年10月時点の Kewpie USA の商品ページには、MSGがあり酵母エキスはありません。配合がいつ変わったのか、本当に変わったのかは確かめられませんでした。中身は、その瓶の表示を見るのが確実です。

どちらかが「偽物」というわけではありません。アメリカ製はれっきとしたアメリカのマヨネーズで、日本で売られているものとはレシピが違う、というだけです。


日本とアメリカの「マヨネーズ」の定義

どちらの国も、公的な規格でマヨネーズを定義しています。2つの定義は、思ったより近いものです。

日本:JAS 0955 ドレッシング(農林水産省)アメリカ:21 CFR 169.140(FDA)
植物油の下限重量の65%重量の65%
卵卵黄または全卵卵黄または全卵(液状、冷凍、乾燥)
酸味食酢またはかんきつ類の果汁酢、レモン果汁、ライム果汁
甘味砂糖類、はちみつを使える栄養のある炭水化物甘味料を使える
グルタミン酸調味料(アミノ酸等)を使えるMSGを使える
EDTA使える原材料の一覧にない金属封鎖剤としてEDTAカルシウム二ナトリウムを使える
その他の制限水分30%以下。一覧以外の原材料は使えない香辛料はサフランとターメリック以外なら使える

日本の規格は、マヨネーズを卵黄か全卵を使い、決められた原材料だけを使い、植物油が重量の65%以上の半固体状ドレッシングと定義しています。油の少ないものは同じ規格の別の区分になり、たとえば「サラダクリーミードレッシング」は卵黄とでん粉や糊料を使い、油が10%以上50%未満です。

ここからわかること:

  • 卵黄だけはキユーピーの判断です。 どちらの規格も全卵を認めています。
  • MSGも砂糖も、両国で使えます。 日本のキユーピーはアミノ酸系の調味料を使い、砂糖は使いません。アメリカのキユーピーはMSGも砂糖も使います。
  • 2つの表示ではっきり違うのはEDTAです。 アメリカの規格は認め、日本のマヨネーズの定義にはありません。細かい違いはほかにもあり、アメリカはクエン酸とリンゴ酸を、日本はたん白加水分解物とはちみつを認めています。
  • 法的な重みは同じとは限りません。 アメリカの規則は連邦の「同一性基準(standard of identity)」です。日本の定義はJAS規格によるもので、日本の表示制度が「マヨネーズ」という名前をこれに合うものに限っているかどうかは確かめていません。

再現レシピが米酢・砂糖・MSGを使う理由

英語のページのいくつかは、日本のキユーピーの酸味は米酢だと書いています。Japanese Taste は「2種類の酢、米酢とりんご酢」を使うとし、Insanely Good Recipes は「米酢やりんご酢などを合わせた酢」と書いています。2024年の Tasting Table の記事は、手作りキユーピーの「秘密の材料」は米酢だとし、その再現レシピは米酢に砂糖、塩、MSG、卵黄、油を合わせます(いずれも英語の原文を訳したもの)。同じ記事は、りんご酢を好む再現レシピもあると書いていて、Insanely Good の代用案はりんご酢とMSGの組み合わせです。

これには筋の通った理由があります。手本がアメリカのスーパーに並ぶキユーピーなら、その表示には米酢、りんご酢、砂糖、MSGがあります。アメリカの表示から組み立てた再現レシピは、アメリカの商品をかなり忠実にまねているのです。

食い違いが生まれるのは、そのレシピを日本のキユーピーとして紹介したときです。日本の表示には砂糖がなく、キユーピーは酢をりんご果汁やモルトなどからつくったと説明しています。同社の説明では、当時の日本の酢は米などを原料にしたものが中心で、マヨネーズに合う酢が手に入りにくかったためです。

キユーピー自身が手作りマヨネーズの作り方を公開しているものは見つからなかったため、ここではレシピを載せていません。英語の再現レシピを日本の瓶に近づけるなら、表示から読み取れる方向は3つです。砂糖を抜く、卵黄だけを使う、米以外の原料の酢を選ぶ。表示の読み方であって、試した配合ではありません。家庭でマヨネーズをつくる場合は、下のよくある質問にある生卵の注意も読んでください。


よくある質問

海外ではキユーピーマヨネーズはどう紹介されていますか。 英語のページのいくつかは、味の理由を卵黄と米酢(りんご酢と合わせることも)と説明し、再現レシピには米酢・砂糖・MSGを使うものがあります。ただ米酢と砂糖が表示にあるのはアメリカ製のキユーピーで、日本製の表示にはどちらもありません。

アメリカで買うキユーピーが日本製かどうかは、どう見分けますか。 Kewpie USA の12 fl ozは「Product of USA」で、原材料は大豆油から始まります。日本製なら日本語の原材料表示が食用植物油脂から始まり、製造者はキユーピー株式会社です。表示の言語ではなく、原産国と最初の原材料を見るのが確実です。

アメリカでは手作りマヨネーズはどう扱われていますか。 アメリカの食品安全の機関は慎重です。USDA の食品安全検査局(FSIS)は生や加熱不十分の卵を食べないよう勧め、十分に加熱していない卵でつくる手作りマヨネーズをその例に挙げています。生卵を使うレシピには殺菌卵や卵製品を使うこと、殻付きのまま殺菌した卵なら加熱せずに安全に使えることも書いています。FDA も、生卵を使う料理にはサルモネラ菌を処理した殻付き卵か殺菌卵製品を使うよう勧め、子ども、高齢者、妊娠中の人をリスクの高い人に挙げています。日本の生卵との違いは卵かけご飯と生卵で書きました。


この記事の調べ方

原材料、卵黄3.6個という数字、酢の歴史、1925年の発売は、キユーピー株式会社の日本語の商品ページ、原料のページ、統合報告書、ニュースリリース、英語の沿革によっています。キユーピー ハーフの変更は業界紙によります。マヨネーズの定義は農林水産省のJAS 0955(ドレッシング)とアメリカの連邦規則集(21 CFR 169.140)、アメリカの商品は2026年10月時点の Kewpie USA の公式ページ、生卵の注意は USDA FSIS と FDA によります。日本語資料からの引用は原文のまま、短くとどめています。取り上げた英語圏の主張は、下に挙げたページによります。この記事にレシピはなく、当サイトで試作したものもありません。

参考資料

日本の一次資料:

日本の報道:

アメリカの公的・公式の資料:

取り上げた英語のページ:


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