「かつお節は細菌で発酵させた魚」? 英語の解説の誤りと荒節・枯節
英語圏の解説には、かつお節をすべて「細菌のかびで発酵させた魚」のように書くものがあります。荒節にはかびがつかず、かびは細菌でもありません。JAS規格と表示のルールで確かめます。

英語でかつお節を調べると、「燻して、発酵させ、乾かした魚(smoked, fermented, and dried)」という説明によく出会います。MasterClass のかつお節の解説はそう定義したうえで、魚に「細菌のかびの培養物(bacterial mold culture)」をつけると書いています(英語の原文を訳したもの)。読んだ人は、袋入りの削り節はどれも長いかび付けを経ている、と受け取るでしょう。
日本の規格では、そうなのは一種類だけです。削りぶしの日本農林規格(JAS 1122)は、煮て燻して乾かした「ふし」と、そこからさらにかび付けを重ねた「かれぶし」を別のものとして定義し、食品表示でも名前を分けています。ふだん使われる荒節は、かびに一度も触れません。
「かつお節は発酵食品か」への答えは、かび付けをしたものとしないものがあり、そのかびは細菌ではなく真菌(糸状菌)だ、ということになります。
要点
- 荒節は煮て燻したところで終わりです。かびはつけません。
- 枯節は荒節の表面を削り、かび付けと日干しを2回以上くり返したものです。本枯節はその回数がさらに多いものですが、何回かはJAS規格で決まっておらず、資料によって違います(にんべんは社内で基準を決めています)。
- かびはアスペルギルス属の真菌で、細菌の培養物ではありません。
- 表示である程度見分けられます。 枯節だけを削ったものは「かつおかれぶし削りぶし」と表示しなければなりません。「花かつお」はかつおのふしだけで、枯節は入っていません。「かつお削りぶし」はふつうふしですが、ふしと枯節を混ぜたものの場合もあります。
英語圏の解説は何と書いているか
MasterClass の記事は、削り節をすべて発酵させたものとして扱い、Aspergillus glaucus(かつお節かびとして知られてきた種)を「細菌のかびの培養物」と呼んでいます。種類としては枯節、本枯節、花かつお、削りかつおの4つを挙げ、荒節にはまったく触れていません。枯節の項目ではさらに、かつお節と呼ばれるには、煮て燻して乾かし、「少なくとも2週間、細菌の培養物で発酵させ」なければならないと書いています。
英語の資料がすべて間違っているわけではありません。Just One Cookbook のかつお節のページは荒節を別に挙げ、「かびに覆われておらず、発酵もしていない」かつお節だと説明し、花かつおはかびのない荒節を削ったものだとしています。これは下で見る日本の資料と一致します。
直すべき点は2つに絞られます。かび付けは一部のかつお節だけが経る工程であること。そして、かびは細菌ではないこと。燻して乾かした硬い魚という説明そのものは正確です。
作り方と数字
農林水産省と、三菱電機のかつお節特集は、同じ流れを説明しています。三枚におろして背と腹に分けた4本の節を、沸騰しない湯で煮て(煮熟)、冷ましてから骨と皮の一部を除き(この段階が「なまり」)、燻しては冷ますことを日をまたいでくり返します(焙乾)。こうしてできる燻しの強い節が荒節で、鬼節とも呼ばれます。
枯節にする場合だけ、ここから先があります。表面を削って赤褐色の「裸節」にし、室(むろ)や箱に入れてかびで覆い、日に干してかびを払い、これをくり返します。
数字は資料や作り手によって違うので、作り方というより幅として見てください。
| 工程 | 神戸大学(竹中) | 焼津のにんべん協力工場(三菱電機) | 平凡社 世界大百科事典 |
|---|---|---|---|
| 煮熟 | 85°Cで70〜90分 | 約92〜93°Cで1時間半〜2時間 | 記載なし |
| 焙乾 | 80〜90°C、1回5〜6時間、10日間で8〜10回 | くり返し。薪はナラ | 8〜12回 |
| かび付け1回 | 記載なし | 2〜3週間 | 15〜17日 |
| かび付けの回数 | 約4回、約6か月 | 4回以上。全工程で約6か月 | 4番かびで本枯節 |
農林水産省は、本枯節はかびで4〜6か月ほど熟成させるとしています。JAS規格がはっきり数字を決めているのは、ふしの水分が26%以下になるまで燻すという点です。
歴史について
農林水産省の伝統食のページは、いまの製法は1674年に紀州で始まり、1707年に鹿児島の枕崎へ伝わったと「言われている」としていて、どちらも言い伝えとして紹介しています。平凡社の百科事典は、古い文献には煮て干す方法しか出てこないとし、いまのかび付けが延宝年間(1673〜81年)に見いだされたという説はうなずけるとしています。同じ農林水産省のページは、2022年の水産加工統計をもとに、鹿児島県が生産量日本一だとしています。
JAS規格が引く線
JAS 1122 は「ふし」を、頭と内臓を除き、煮て身のたんぱく質を固め、冷ましてから水分26%以下まで燻して乾かしたもの、と定義しています。そのうえで枯節をこう定義します。
「ふし(3.1)(かつおにあっては,表面を削ったもの)に 2 番かび以上のかび付けをしたもの。」 — JAS 1122:2019 削りぶし
つまりJASでは、かび付けが2回に達して初めて枯節です。1回だけでは「ふし」のままです。実際に目にする「ふし」の多くは荒節です。
| 荒節 | 枯節 | 本枯節 | |
|---|---|---|---|
| 煮熟と焙乾 | あり | あり | あり |
| 表面を削る | なし | あり | あり |
| かび付け | なし | 2回以上(JAS) | 枯節より多い。回数は資料による |
| JASの区分 | ふし | かれぶし | JASに独立した区分はない |
| 風味と用途(にんべん) | 燻した香りが強く、煮物やめんつゆ向き | 上品な香りとうま味 | 濃縮された味で、雑味がない |
本枯節はJASでは定義されていません。にんべんの研究者は、社内ではかび付けと日干しを4回以上くり返したものを本枯節としていると話しています。農林水産省は「数回」のかび付け、または4番かびを終えたものと説明し、小学館のデジタル大辞泉は、2〜3回の枯節よりさらに重ねたものとしています。英語の資料(MasterClass、Just One Cookbook)は3回以上としています。回数が気になるなら、その商品の作り手の説明を見るのが確実です。
かびの役割と「発酵」という言葉
枯節があるのは、かびのためです。にんべんの研究者は、節の表面に「優良カビ」を生やすことで「不良カビ」が生えないようにする手法が生まれた、と説明しています。いまは純粋培養したかびを意図してつけているそうで、三菱電機が訪ねた工場では、胞子を節に吹きつけ、1回につき2〜3週間、室に置いていました。
かびは食感も風味も変えます。
「カビは、節の乾燥を穏やかに促します。」 — にんべん研究開発部(三菱電機 CLUB ME のインタビュー)
にんべんは、かび付けで生臭さが減り、燻した香りの一部が甘い香りに変わるとしています。平凡社の百科事典は、かび付けで脂肪が減り、味、香り、色がよくなると書いています。神戸大学大学院農学研究科の竹中慎治さんも、脂肪の分解、風味の付与、色の変化を挙げています。
どのかびか。 日本の資料はアスペルギルス属としています。竹中さんによると、かつお節かびは昔から Aspergillus glaucus とその近縁種だといわれてきましたが、かび付けで実際に働いているのがどの種かははっきりしていませんでした。研究グループは枯節から A. amstelodami、A. chevalieri、A. pseudoglaucus、A. ruber、A. sydowii の5種を分離し、ある作り手の試料では A. pseudoglaucus と A. chevalieri が優勢でした。英語の解説のように Aspergillus glaucus だけを挙げるのは単純化です。いずれにしても糸状菌で、「細菌の」培養物と呼ぶのは明らかな誤りです。
発酵といえるか。 誰が書くかによります。竹中さんは枯節を「かび付け発酵・熟成」と表現しています。一方、コトバンクの辞書の項目はどれも、かつお節づくりを「発酵」とは書いていませんし、農林水産省のページもこの言葉を使わず、「かび付け」「熟成」と書いています。にんべんのインタビューでも、「発酵」が出てくるのは編集部の見出しと質問だけで、にんべんの答えにはありません。枯節を「かび付けで熟成させたもの」と呼ぶのがいちばん確かで、広い意味で「発酵」と呼ぶのも無理はありません。ただ、荒節を発酵食品と呼ぶ根拠は、ここで調べた日本の資料にはありません。かびに一度も触れないからです。
表示で見分ける
日本で売られているかつお節や、アメリカで売られている削り節のうち、荒節と枯節がどのくらいの割合なのか、信頼できる数字は見つかりませんでした。それでも、日本の表示である程度は絞り込めます。
食品表示基準の別表第五は、1種類の魚の枯節だけを削ったものを「かれぶし削りぶし」、ふし、またはふしと枯節を混ぜて削ったものを「削りぶし」と名付けると定めています。業界の「削りぶしの表示に関する公正競争規約」(全国削節公正取引協議会)は、名称の前に魚の名前をつけるとし、もう一つ例外を設けています。
「(ただし、)かつおのふしのみを削ったものにあっては、「花かつお」と表示することができる。」 — 削りぶしの表示に関する公正競争規約施行規則 第3条第1項
規約が縛るのは加盟している事業者ですが、枯節の名前のルールは国の食品表示基準にもあります。これらのルールでいう「ふし」は枯節に満たないもの、実際には多くが荒節なので、「花かつお」とあれば枯節は入っていないことになります。
| 名称の表示 | 中身 |
|---|---|
| かつおかれぶし削りぶし | かつおの枯節だけを削ったもの。かび付けあり |
| 花かつお | かつおのふしだけを削ったもの。枯節なし。ふつうは荒節 |
| かつお削りぶし | かつおのふし、またはふしと枯節を混ぜて削ったもの。枯節だけではない |
| 混合削りぶし | 2種類以上の魚を削ったもの |
規約は、厚く削ったものには「厚削り」、糸状のものには「糸削り」と表示するよう定めています。
アメリカで英語の表示だけの商品を買う場合は、この名称欄がないことがあります。そのときは商品名や説明に arabushi、karebushi、honkarebushi の文字があるかを見るしかなく、どれもなければ表示だけでは種類がわからないこともあります。
使い分け
にんべんの研究者は、燻した香りの強い荒節は煮物やめんつゆのような味の濃い料理に、上品な香りの枯節や本枯節は吸い物や繊細な和食に向くとしています。英語圏で「だしは魚のスープ」と説明されがちなことについては、だしは魚のスープではないで書きました。
JAS規格は削り節の水分も、節より低い9〜17%と定めています。不活性ガスを充てんして密封したものは21%までです。
よくある質問
海外ではかつお節はどう説明されていますか。 英語圏では「燻して発酵させ、乾かした魚」と説明されることが多く、かびを「細菌の培養物」と書く解説もあります。実際には荒節はかびをつけず、かびも細菌ではなくアスペルギルス属の真菌です。荒節を別に説明している英語のページもあります。
かつお節は発酵食品ですか。 すべてではありません。荒節は煮て燻すだけで、かびはつけません。枯節と本枯節はアスペルギルス属のかびで熟成させ、神戸大学の研究者はこれを発酵と表現しています。ただし農林水産省や辞書は「発酵」ではなく「かび付け」「熟成」と書いています。
本枯節には決まった定義がありますか。 JASにはありません。にんべんはかび付け4回以上を本枯節とし、農林水産省は「数回」、または4番かびを終えたもので、4〜6か月ほど熟成させると説明しています。
削り節はすべてかつおですか。 そうとは限りません。JAS規格はかつお、さば、まぐろ、いわしの削りぶしを対象にしていて、表示には魚の名前が入ります。2種類以上を混ぜたものは「混合削りぶし」です。
この記事の調べ方
主に日本語の一次資料によっています。削りぶしのJAS規格(JAS 1122:2019)、食品表示基準の別表第五、削りぶしの表示に関する公正競争規約、農林水産省の伝統食のページ、そして発酵研究所が公開している神戸大学の研究者の研究報告です。にんべんの話はインタビュー、工場の様子は訪問記で、どちらも家電メーカーである三菱電機の CLUB ME に載ったものなので、二次資料として扱いました。製法と歴史の細部には、コトバンクの百科事典を使いました。英語のページ2つは、アメリカの読者が目にする説明の例として引いています。表示の表は、引用したルールを当サイトがまとめたものです。当サイトでかつお節を作ったり、味を比べたりはしていません。
参考資料
- 日本農林規格 削りぶし JAS 1122:2019 — 農林水産省(PDF) ふしと枯節の定義、水分の基準
- 食品表示基準 別表第五 — 大阪府が掲載(PDF) 削りぶしの名称
- 削りぶしの表示に関する公正競争規約及び施行規則 — jfftc.org(PDF) 「花かつお」などの表示
- かつお節|にっぽん伝統食図鑑 — 農林水産省 製法、歴史、産地
- かつお節かび付け工程で働く好乾性糸状菌の分類と菌叢解析に関する研究 — 竹中慎治(神戸大学)、発酵研究所(PDF) かつお節かびの種類
- 第4回かつお節 — 三菱電機 CLUB ME かつお節の特集
- かつお節 インタビュー — 三菱電機 CLUB ME にんべん研究開発部へのインタビュー
- かつお節 コラム — 三菱電機 CLUB ME 焼津のにんべん協力工場の訪問記
- 鰹節 — コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、デジタル大辞泉など
- How to Cook With Bonito Flakes: 4 Types of Katsuobushi — MasterClass 英語:すべてを発酵とする解説の例
- Katsuobushi (Dried Bonito Flakes) — Just One Cookbook 英語:荒節を区別している解説の例


