翻訳で消えたもの

絹ごし豆腐は「軽く押した豆腐」ではない:英語圏の豆腐の誤解

英語圏では豆腐を「押し具合」で並べ、絹ごしはいちばん軽く押したものと説明されがちです。日本の資料が示す木綿と絹ごしの作り方と、アメリカの「silken firm」表示や常温保存の豆腐を確かめます。

白い皿にのった2つの豆腐。つやのあるなめらかな絹ごし豆腐の横に、うっすら布目の残る木綿豆腐。

英語圏の豆腐の解説には、豆腐を1本の物差しに並べるものがあります。片方の端が silken(絹ごし)、もう片方が extra-firm(とても固い)で、違いは固まった豆腐をどれだけ強く押したかで決まる、という説明です。分かりやすい図ですが、日本の豆腐についてはいちばん大事な点を外しています。

日本の資料では、木綿と絹ごしは最初から作り方が違います。木綿は固めた豆腐をくずし、布を敷いた穴あきの型に入れて重しで押します。絹ごしは濃い豆乳を穴のない型でそのまま固め、布も重しも使わず、水も切りません。軽く押した豆腐ではなく、まったく押していない豆腐です。

要点

  • 英語圏の「押し具合」の説明は、日本の木綿と絹ごしの違いを言い当てていません。違いは押す強さではなく、くずして押すか、豆乳全体を固めるかです。
  • アメリカの表示は日本の種類と一対一で対応しません。 箱入りの「silken firm」は、固めの絹ごし豆腐です。水に浸かったパック入りの「firm」のほうが木綿に近いものです。
  • アメリカには豆腐の連邦規格がありません。 USDA(米国農務省)は silken、soft、firm、extra firm という言葉を挙げるだけで、定義していません。
  • アメリカの常温保存の絹ごし豆腐 Mori-Nu は、森永乳業の子会社がアメリカで作っています。

英語圏ではどう説明されているか

アメリカには、こうした言葉を裏付ける公的な定義がありません。学校給食についての USDA の指針ははっきり「豆腐には連邦の標準規格(standard of identity)がない」と書き、食感として「silken、soft、firm、extra firm など」を挙げていますが、定義はしていません(英語の原文を訳したもの)。

決まった定義がないので、押し具合だけで豆腐を分ける説明が出てきます。食の情報サイト Fine Dining Lovers の解説は、豆腐の種類に応じて凝固したものを「型にそっとすくい入れ、程度を変えて押す」とし、「押しを弱くして水分を多く残すと、絹ごしやソフトの豆腐になる」と書いています(英語の原文を訳したもの)。公平のために言えば、同じ解説は、絹ごしは「ブロック状の豆腐と同じようには押さない」とも書いています。書かれていないのは、日本の資料が真っ先に挙げる点、つまり絹ごしはくずした豆腐からはそもそも作らない、ということです。


木綿と絹ごし:日本の資料が書く作り方

『日本大百科全書(ニッポニカ)』によると、木綿は豆乳が約70°Cに下がったところで凝固剤を入れ、四方に小さな穴のある型箱に木綿の布を敷いて入れ、落としぶたと重しで水を絞ります。業界団体の日本豆腐協会も、押す前に軽くくずす工程を含め、同じ手順を説明しています。

「もめん豆腐はキメがやや粗く、布目や型のあとが残る場合があります。」 — 日本豆腐協会

絹ごしについて、ニッポニカはこう書いています。

「絹漉し豆腐は、木綿豆腐のように水きりをせず、豆乳全体を固めたものである。」 — 『日本大百科全書(ニッポニカ)』(コトバンク)

型には穴がなく、溶いた凝固剤を先に入れ、そこへ熱い豆乳を注いで、そのまま置いて固めます。『世界大百科事典』は、豆乳を水を少なくして濃くすること、重しを使わないので表面がなめらかになることを加えています。食品安全委員会も2018年の無菌充填豆腐の特集で、絹ごしは押しも水切りもしないので、濃い豆乳から作る必要があるとまとめています。日本豆腐協会は、絹ごしの固形分は豆乳の濃度と同じになるので、濃い豆乳が要るとしています。

違いの核心はここです。木綿は固まったあとに水を押し出し、絹ごしは水をまったく押し出しません。

絹で漉しているわけではない

「絹ごし」は文字どおりには「絹で漉した」です。EDRDG のデータを使う和英辞書サイトも、この語を「絹の布で濾すこと」と訳しています。言葉の意味としては正しいのですが、豆腐の作り方とは違います。ニッポニカは、名前は木綿より柔らかく水分が多いことから来ていて、絹の布で漉すわけではないとしています。三菱電機が掲載した取材で、豆腐店の三和豆水庵はこう話しています。

「…「絹」ごし豆腐は絹の布を使うわけではなく、食感が柔らかく、口当たりが絹のようになめらかだからという説が有力です。」 — 三和豆水庵 田宮さん(三菱電機 掲載のインタビュー)

日本豆腐協会も、布については同じことを書き、名前を木綿の食感と対比した、きめ細かくなめらかな舌ざわりと見た目に結びつけています。


ソフト豆腐と充填豆腐

日本の豆腐は2種類だけではありません。

日本の種類作り方(日本の資料による)食感
木綿くずして布を敷いた穴あきの型に入れ、重しで押す固め、きめが粗く、布目が残ることも
ソフト豆腐日本豆腐協会によると、くずさずに大きな塊のまま型に入れ、押して成形木綿と絹ごしの中間。協会は「やわらかい木綿」とする
絹ごし濃い豆乳を穴のない型でそのまま固める。水切りしないなめらかできめ細かい
充填豆乳と凝固剤をプラスチック容器に密封してから加熱して固めるなめらか。水にさらさない

充填豆腐について、ニッポニカは約90°Cの湯で約40分加熱してから冷やすとしています。日本豆腐協会は、水にさらさないので風味が逃げにくいと書いています。

ややこしいのは「ソフト」です。日本豆腐協会はくずさずに押した「やわらかい木綿」とし、ニッポニカはソフト豆腐を充填豆腐と同じく、容器の型に入れて湯で固めるものに分類しています。日本でも「ソフト」の使い方は一定していません。アメリカの「soft」にも公的な定義はなく、ブランドによって違います(下の表)。


凝固剤:にがり、すまし粉、GDL

東京都健康安全研究センターが2006年に発表した研究によると、豆腐づくりには昔から海水由来の粗製の塩化マグネシウムと、精製した塩化マグネシウムが「にがり」として使われてきました。ブリタニカ国際大百科事典も塩化マグネシウムの総称として「にがり」を使い、硫酸カルシウムを「すまし粉」と呼ぶとしています。同じ研究は、硫酸カルシウムと塩化カルシウムも使われ、グルコノデルタラクトン(GDL)が充填豆腐と絹ごしで広く使われるようになったとしています。

「グルコノデルタラクトン(以下GDLと略す)が製造工程での使いやすさや,なめらかできめの細かい製品ができることから,充填豆腐や絹ごし豆腐の製造に多用されている.」 — 東京都健康安全研究センター 研究年報 第57号(2006)

この研究で2004年に都内で買った豆腐33品のうち、30品が塩化マグネシウムを、11品が GDL を表示していました。木綿は3品だけで、市場調査ではなく小さな標本です。

アメリカの豆腐の凝固剤も似ています。USDA の指針は豆腐の基本の材料を、大豆、水、「1種類以上の食品用凝固剤(ふつうは塩か酸)」としています。Mori-Nu の FAQ は、豆腐はふつう「硫酸カルシウムか塩化カルシウムと GDL」で固めるとし、自社の絹ごしには GDL と塩化カルシウムを表示しています(いずれも英語の原文を訳したもの)。


アメリカの表示と日本の種類

おおまかな対応です(目安で、決まりではありません)。

アメリカの表示近い日本の種類理由
firm / extra-firm(水に浸かったパック入り)木綿ふつうは押して作る(ブランドによる)
soft(水に浸かったパック入り)はっきり対応するものはないアメリカに定義がなく、ブランドによって違う
silken(冷蔵)絹ごしふつうは押さずに全体を固める(ブランドによる)
silken soft / firm / extra firm(常温保存の箱入り)絹ごし、充填タイプ無菌充填。森永の日本の同等品は充填豆腐に分類される。「firm」は固めの絹ごしの意味

常温保存の絹ごし豆腐:Mori-Nu

いちばん分かりやすい例が、常温で置ける絹ごし豆腐です。Mori-Nu は自らを「Silken Tofu brand」と名乗り、公式サイトには Soft、Firm、Extra Firm などが並び、固めのものは「Mori-Nu Silken Firm Tofu」として売られています。原材料は水、大豆、分離大豆たんぱく、GDL、塩化カルシウムです。ここでの「firm」は固めの絹ごしで、木綿ではありません。

公式サイトは、無菌包装が豆腐を「光、空気、細菌から守り」、「開封するまで冷蔵不要」としています(英語の原文を訳したもの)。FAQ によると、製造はアメリカのオレゴン州ポートランド近郊です。製造元の Morinaga Nutritional Foods は、森永乳業の完全子会社です。

日本では、ふつうの豆腐は冷蔵が前提でした。食品安全委員会は2018年、無菌充填豆腐の常温保存についてのリスク評価でそのことに触れています。厚生労働省は2018年7月13日、常温で保存できることを確かめたうえで、無菌充填豆腐の新しい規格基準を定めました。森永乳業の発表によると、消費者庁は同年9月に表示基準を改正しています。森永乳業は、食品と容器を別々に殺菌して無菌で充填する、保存料なしで日持ちする絹ごし豆腐を、1989年から宅配で販売してきたとしています。

保存について(メーカーによる): Mori-Nu は、開封後に残った豆腐はすぐ密閉容器に入れて冷蔵し、長くても2日以内に使い、水には浸けないよう書いています。


使い分けと「pressing」

三菱電機の取材で、三和豆水庵の平山さんは、豆腐そのものを味わう料理には絹ごしをすすめています。

「絹ごし豆腐はつるんとしたなめらかな口当たりが特徴なので、食感も含めた豆腐そのものの味わいを楽しむ冷奴や湯豆腐がいいですね。」 — 三和豆水庵 平山さん(三菱電機 掲載のインタビュー)

木綿については、肉のような歯ごたえと味のしみ込みやすさを挙げ、炒め物や煮物に向くとしています。

英語のレシピが「press(押す)」と呼ぶ工程は、日本でいう水切りです。では、絹ごしは押すべきでしょうか。ここで挙げた日本の資料は、絹ごしを水切りせずに固め、なめらかさを評価する豆腐として書いていて、押す例はありません。日本のレシピが水切りをするのは、白和えのように乾いた豆腐が要る料理で、使うのは木綿です。

白和えの水切り(高松市の作り方)

高松市食生活改善推進協議会(勝賀ブロック)が高松市のサイトで公開している「きゅうりの白和え」をもとにしています。分量と作り方は同協議会のもので、当サイトでは試作していません。

4人分

  • きゅうり 2本
  • 塩 少々
  • きくらげ(乾燥) 3g
  • にんじん 35g
  • 木綿豆腐 1/2丁(約180g)
  • 練りごま 大さじ1
  • 中みそ 大さじ1(レシピにそれ以上の指定はありません)
  • 砂糖 大さじ1
  1. 野菜の下ごしらえ。 きゅうりは薄切りにして塩をふり、約5分おいてしんなりしたら水気をしぼります。きくらげは戻してせん切りに、にんじんは2cmの細切りにします。きくらげとにんじんを合わせてラップをかけ、600Wの電子レンジで約2分加熱し、ラップを外して冷まします。
  2. 豆腐の水切り。 豆腐も同じようにラップをかけて600Wで2分加熱し、皿をのせて重しにして水気を出します。くずしてキッチンペーパーを押し当て、残りの水気を取ります。
  3. 和える。 豆腐をなめらかにすりつぶし、練りごま、みそ、砂糖を混ぜ、野菜を加えて和えます。

重しの時間は書かれておらず、しっかり水気を切る、とだけあります。


よくある質問

英語圏では絹ごしと木綿の違いをどう説明していますか。 押す強さの違いとして説明されることが多く、絹ごしは押しがいちばん弱い端に置かれがちです。日本の資料では、木綿はくずして押すもの、絹ごしは濃い豆乳を穴のない型でそのまま固めるもので、作り方から違います。

アメリカの「silken firm」は木綿豆腐ですか。 いいえ。Mori-Nu の「Silken Firm」は固めの絹ごし豆腐です。水に浸かったパック入りの「firm」は押して作るもので、こちらのほうが木綿に近いと考えられます。

アメリカの常温保存の豆腐は日本のものと関係がありますか。 Mori-Nu の製造元 Morinaga Nutritional Foods は森永乳業の完全子会社で、オレゴン州ポートランド近郊で作っています。無菌包装で、開封まで冷蔵不要とされています。日本では厚生労働省が2018年に無菌充填豆腐の規格基準を定め、常温保存ができるようになりました。


この記事の調べ方

主に日本語の資料によっています。コトバンクの各百科事典、日本豆腐協会、食品安全委員会、東京都健康安全研究センター、森永乳業、三菱電機が掲載した三和豆水庵へのインタビューです。アメリカについては USDA の指針と Mori-Nu の公式サイトを使い、英語の解説1件を例として引きました。日本語資料からの引用は原文のまま短くとどめています。アメリカの表示と日本の種類の対応は当サイトのまとめです。水切りの作り方は高松市食生活改善推進協議会のレシピをもとにしたもので、当サイトでは試作していません。

参考資料


みその種類については日本のみその種類、アメリカの店で手に入る日本の野菜についてはアメリカの店で買える日本の野菜もどうぞ。

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