翻訳で消えたもの

アメリカのハマチ・ブリ・カンパチ事情

アメリカの寿司店ではハマチとイエローテールが同じ意味で並びますが、FDAの表示名ではブリは「Amberjack」です。養殖を指す「ハマチ」、別の種を指すアメリカの「Kanpachi」まで、日米の資料で確かめます。

暗い色の皿に大葉とともに盛られた、淡いピンク色のブリの刺身。切り身には濃い色の血合いの筋が入っている。

アメリカの寿司店のメニューでは、「hamachi」と「yellowtail(イエローテール)」がたいてい同じ意味で並んでいます。英語の解説記事は、若い魚がハマチ、成長した魚がブリだと説明します。たとえば料理サイトのThe Daily Mealは、イエローテールを「若いうちはハマチ、成長しきるとブリとして知られる」魚だと書いています(英語の原文を訳したもの)。

一部は合っています。ただ、地方ごとの呼び名も、日本で「ハマチ」が養殖ものを指すことが多い点も抜けています。

さらに意外なのは、アメリカ側の名前のほうです。アメリカ食品医薬品局(FDA)の表示の手引きでは、ブリの市場名は「Yellowtail」ではなく「Amberjack」です。そして、FDAが「Yellowtail」を一般名としている魚は、ブリとは別の種です。日本では一つの種がいくつもの名前を持ち、アメリカでは別々の種が一つの名前にまとめられている。向きが逆の、二つの名前の問題を見ていきます。

要点

  • 英語圏の「ハマチ=若いブリ」は、関西の呼び名だけを取り出した説明です。 呼び名は大きさだけでなく地方でも変わり、「ハマチ」は養殖ものの意味でも広く使われます。
  • FDAの「Seafood List」では、ブリの許容される市場名は「Amberjack」です。 「Yellowtail」は相互参照用の名前としてしか載っていません。ここで取り上げるブリの仲間のうち、FDAが「Yellowtail」を一般名とするのは、別の種の Seriola lalandi です。
  • アメリカの「Kanpachi」は、日本のカンパチとは限りません。 2023年から、「Kanpachi (Ocean-Farmed)」は Seriola rivoliana(ヒレナガカンパチ)の市場名として認められています。日本のカンパチは Seriola dumerili です。
  • アメリカの寿司店の「hamachi」は、一般に日本産の養殖ブリだと説明されています。 業界向けの資料SeafoodSourceは日本の養殖イエローテールがハマチの名で出されていると書き、寿司解説サイトのsushiFAQはその多くが日本で養殖されたものだとしています。若い魚であることを示す名前ではありません。

日本側の名前:英語の解説が落としているもの

出世魚の呼び名は一通りではない

環境省の瀬戸内海の学習ページ「せとうちネット」は、まずこう書いています。

「…実は正式な名前(標準和名)はブリです。」 — 環境省「せとうちネット」

呼び名は、関東ではワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ、関西ではツバス→ハマチ→メジロ→ブリ。千葉県の水産のページも環境省も、この二つの流れを挙げています。環境省の目安では、それぞれ約20 cm、40 cm、60 cm、80 cmです。

ただし、大きさの境目は資料によって違います。『日本大百科全書(ニッポニカ)』は、ハマチを15〜50 cm級の魚とし、イナダとメジロを40 cm前後としています。環境省によれば、大きなブリは尾叉長で約80 cm、重さ約10 kgになります。

関東と関西の二通りも、単純にした形です。環境省は、日本海側では小さい魚をまとめてフクラギと呼ぶことが多いとしています。氷見の寒ブリで知られる富山については、富山大学人文学部の教授が笹川平和財団の『Ocean Newsletter』(2015年)で、コズクラ→フクラギ→ガンド→ブリなどの呼び方を挙げ、県東部では最も小さい魚を別の名で呼ぶとしています。同じ記事は、ブリの地方名を95としています。

英語圏の解説がよく挙げるのは、「ハマチ→ブリ」の二段階です。

「ハマチ」は養殖ものの意味でもある

英語の解説がいちばん触れないのが、この点です。たとえばsushiFAQは、「年を経たイエローテールはブリと呼ばれる」と年齢による呼び分けを説明し(英語の原文を訳したもの)、寿司店のハマチの多くは日本で養殖されたものだとも書いています。しかし、日本語を話す人自身が「ハマチ」を養殖ものの意味で使うことには触れていません。

平凡社の『世界大百科事典』によれば、ブリの養殖生産は1971年に天然の漁獲を上回り、出荷される大きさにちなんで、養殖ブリは全国でハマチと呼ばれるようになりました。養殖が盛んになった西日本の呼び名が、養殖の魚とともに全国の市場に広がったわけです。環境省はこう書いています。

「養殖されたものをハマチ、天然のものをブリと呼んでいる場合も多いようです。」 — 環境省「せとうちネット」

日本貿易振興機構(ジェトロ)も、養殖ものを区別するために「ハマチ」という名がよく使われるとしています。

つまり日本語の「ハマチ」は、文脈によって「中くらいの大きさの魚」「西日本の呼び名」「養殖の魚」のどれかを意味します。どの意味でも、ブリと別の種という意味にはなりません。

養殖の始まりと規模

ブリの養殖は、1920年代後半の香川県に始まるとされています。環境省は、1927年に始まったとする説が一般的だとしています。香川県の水産課は、1928年に引田で野網和三郎が事業として成功させたとし、これを世界初としています。二つの年は少し違う節目を指しているので、どちらの年も見かけます。

養殖の種苗には、流れ藻につく稚魚のモジャコが使われてきました。農林水産省は、紹介している漁協ではモジャコ漁の時期は主に4月だとしています。

養殖は今や供給の大きな部分を占めます。農林水産省の広報誌『aff』は、2017年のブリ類の生産のうち54%が養殖だったと伝えています。水産庁は、2023年のブリ類の養殖生産量を124,000トンとしています。

アメリカでの名前:別々の魚が一つの名前に

アメリカには出世魚の習慣はありません。名前の問題は逆の方向から来ます。ブリ属(Seriola)の何種類もの魚が、同じ名前を分け合っているのです。

基準になるのは、FDAの「Seafood List」です。FDAはこれを「州をまたいで取引される水産物の、許容される市場名についての手引き」と説明しています(英語の原文を訳したもの。以下、FDAの引用も同じ)。種ごとに、3種類の名前が載っています。

  • 許容される市場名(acceptable market name): FDAの手引きでは、「アメリカの消費者に対して、その種が何であるかを表す」名前です。
  • 一般名(common name): 研究機関や水産当局が使う英語の名前です。
  • 俗称(vernacular names): 地方の呼び名です。各種のページには、これは「相互参照のためだけのもので、州をまたぐ取引の製品表示には一般に認められない」とあり、使うと「不当表示になるおそれがある」と注意書きがあります。

ブリ属の4種について、リストの記載をまとめるとこうなります。

学名和名FDAの許容される市場名FDAの一般名「Yellowtail」の扱い
Seriola quinqueradiataブリ(ハマチ、イナダなど)AmberjackBuri俗称のみ
Seriola dumeriliカンパチAmberjackGreater Amberjack俗称のみ(「Great Yellowtail」「Greater Yellowtail」も俗称)
Seriola lalandi下の注を参照AmberjackYellowtail一般名
Seriola rivolianaヒレナガカンパチAmberjack または Kanpachi (Ocean-Farmed)Almaco Jack記載なし

目を引く点が三つあります。

1. 4種とも「Amberjack」です。 アメリカの製品表示では、4種すべてに「Amberjack」が市場名として認められています。表示名だけでは、どの魚かわかりません。

2. 「Yellowtail」は別の魚の名前です。 この4種のうち、FDAが「Yellowtail」を一般名としているのは Seriola lalandi です。業界向けの資料SeafoodSourceの「Seafood Handbook」は、この魚を南カリフォルニアやバハ・カリフォルニアの沖でとれる天然もの、メキシコやオーストラリアで養殖されるものとしています。ブリにとって「Yellowtail」は相互参照用の名前にすぎず、カンパチの俗称にも入っています。

S. lalandi について一言。日本の文献はこの学名をヒラマサと結びつけてきましたが、分類は変わっています。小学館の『ニッポニカ』によれば、ヒラマサはかつて S. lalandi とされていましたが、2016年の研究でこのグループが3種に分けられ、日本のものは Seriola aureovittata とされました。どの和名がFDAのどの項目に当たるのか、ここでは断定しません。言いたいのは、FDAの「Yellowtail」と日本のブリは同じ種ではない、ということだけです。

3. アメリカの「Kanpachi」は、日本のカンパチと別の種のことがあります。 FDAは2023年、Seriola rivoliana の市場名として「Kanpachi (Ocean-Farmed)」を加えました。FDAの種のページと2023年の手引きによれば、これは議会が「2023年統合歳出法」(公法117-328)の第774条で求めた変更で、業界誌『Food Safety Magazine』も報じています。種のページには「海で養殖された Seriola rivoliana の許容される市場名はKanpachiである」とあります。

日本でカンパチといえば Seriola dumerili です。頭の「八」の字の模様が名前の由来とされますが、それが正面から見た形か上から見た形かは資料によって違います。S. rivoliana には、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の海洋生物データベースでヒレナガカンパチという和名があります。『世界大百科事典』は、この魚が多い沖縄ではカンパチと区別されないとしています。近い仲間ではありますが、アメリカの「Kanpachi」表示はある種の法的な市場名で、日本語のカンパチはふつう別の種を指します。

公平のために

だからといって、「yellowtail」と書いたメニューが間違いというわけではありません。「Yellowtail」はブリの英語名として広く通じます。日本の主な百科事典も、ブリの英名として「Japanese amberjack」と並べて「yellowtail」を挙げています。SeafoodSourceは、英語ではこの言葉がカレイ類やマグロ、シタビラメにも使われるので、もともと紛らわしいと指摘しています。

また、FDAの名前は州をまたいで売られる水産物の表示の手引きです。Seafood Listの手引きはレストランのメニューには触れておらず、表示のルールがどこまで飲食店に及ぶのかも確認できていません。どこかのメニューが規則違反だと言うつもりはありません。

日本の側でも、表示ではないものの、これらの魚をまとめて扱っています。水産統計の「ブリ類」はブリ、カンパチ、ヒラマサを合わせたもので、水産庁の養殖の戦略資料もこのくくりを使っています。

アメリカの寿司店の「hamachi」とは

アメリカのメニューの「hamachi」は、ふつう大きさではなく商品名です。SeafoodSourceは、日本の養殖イエローテールが「アメリカの寿司バーではハマチの名で出されている」と書いています(英語の原文を訳したもの)。ジェトロの2025年の輸出品目別レポートによれば、ブリ類はアメリカで「hamachi」の名で定着しています。アメリカは最大の輸出先で、2023年は9,223トン、この品目の輸出額の58.4%を占めました。

注意点が二つあります。ジェトロの数字はブリ類全体(ブリ、カンパチ、ヒラマサ)のもので、税関の品目には他の種が含まれることもあります。また、アメリカの飲食店で出されるハマチのうち養殖ものがどれだけかを測った資料は見つかりませんでした。「ほとんどが日本の養殖ブリ」というのは、これらの資料の説明であって、測った数字ではありません。

まとめると、こうなります。

  • アメリカの寿司店の「hamachi」 は、一般に日本産の養殖ブリだと説明されています。若い魚であることを約束する名前ではありません。
  • 「buri」 も同じ種です。千葉県が書くように、冬の寒ブリは脂がのって珍重されます。ただ、アメリカの店がこの名前で何を出すかは店しだいです。
  • 「kanpachi」「hiramasa」 はブリとは別の魚です。日本の百科事典は、どちらも旬を夏としています。アメリカの「Kanpachi」は、海で養殖された S. rivoliana のこともあります。
  • 知りたければ、産地と養殖かどうかを聞くのがいちばんです。 メニューの名前より多くのことがわかります。

生の魚についての日本の規則は、日本の刺身は安全かと「スシグレード」の魚の記事で取り上げています。

アメリカの魚売り場では

アメリカの魚売り場では、同じ魚が「amberjack」「yellowtail」「hamachi」「buri」のどれかの名前で、生でも冷凍でも並んでいることがあります。どの名前も同じ種を指しうる一方、同じ名前が別の種を指すこともあります。表示に学名や原産国が書いてあれば、そちらを確かめるのが確実です。

ブリは寿司だけの魚ではありません。照り焼きの定番であることや、その作り方は、照り焼きはソースではないの記事で書いています。

よくある質問

アメリカの寿司店の「イエローテール」はブリですか?

たいていはそうです。英語圏ではブリ(Seriola quinqueradiata)を yellowtail や Japanese amberjack と呼ぶのがふつうです。ただしFDAの「Seafood List」では、ブリの許容される市場名は「Amberjack」で、「Yellowtail」を一般名とするのは別の種の Seriola lalandi です。

英語圏では、ハマチとブリの違いをどう説明していますか?

多くは「若い魚がハマチ、成長した魚がブリ」という説明です。関西の呼び名としてはその通りですが、関東や日本海側の呼び名や、「ハマチ」が養殖もの、「ブリ」が天然ものを指すことが多いという日本での使い方には、ほとんど触れていません。

アメリカで「Kanpachi」と書かれた魚は、日本のカンパチですか?

そうとは限りません。2023年から、「Kanpachi (Ocean-Farmed)」はヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)のFDAの市場名として認められています。日本のカンパチは Seriola dumerili です。

アメリカのハマチは養殖ですか?

SeafoodSourceとsushiFAQは、アメリカの寿司店のハマチを日本産の養殖魚だと説明しています。ただし、そのうち養殖ものがどれだけかを測った数字は見つかりませんでした。

この記事の調べ方

日本の呼び名と大きさは、環境省、千葉県、香川県、農林水産省、水産庁、ジェトロの公的資料と、コトバンクに収録された百科事典、富山大学の研究者の論考によりました。アメリカの名前は、FDAの「Seafood List」の種ごとのページ、2023年の更新記録、手引きを直接確かめました。英語圏でのハマチの説明は、SeafoodSource、sushiFAQ、The Daily Mealで確認しました。英語の引用は私たちが訳したものです。大きさの境目、養殖の始まりの年、ヒラマサの学名、カンパチの「八」の字の見え方など、資料によって違う点は、どれか一つに決めずにそのまま書いています。

出典

日本の資料:

アメリカと英語圏の資料:


この記事は、シリーズ英語の日本料理レシピは何を間違えているのかの一本です。

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