安全と表示

アメリカの「スシグレード」は公的な等級ではない:日米のルールを比べる

アメリカの魚売り場で見かける「sushi grade」には、連邦政府の定義が見当たりません。FDAの冷凍基準、日本の「生食用」表示が実は細菌の基準であること、アニサキス対策の違いを確かめます。

白っぽい木のまな板にのった、厚く切った生のまぐろとサーモン。

アメリカで刺身やポキを家で作ろうとすると、魚売り場やネット通販で「sushi grade(スシグレード)」の魚を買うように勧められます。牛肉の「USDA Prime」のような公的な等級に聞こえますが、そうではありません。調べた限り、「sushi grade」や「sashimi grade」を定めたアメリカ連邦政府の定義は見つかりませんでした。魚の寄生虫に関するFDA(米国食品医薬品局)の指針にも、どちらの言葉も出てきません。

実際にあるのは、もっと具体的なルールです。アメリカでは、FDAの指針が生で食べる魚の寄生虫を殺すための冷凍の温度と時間を示しています。日本では、生で食べる切り身や刺身に「生食用」「刺身用」と表示します。ただし、この表示の裏にある国の基準は細菌についてのもので、寄生虫は対象外です。寄生虫の指針は別にあり、冷凍の条件もFDAとは違います。

実用上の答えは短く済みます。生食用として売られている魚を、どう冷凍したか(あるいはなぜ冷凍が不要か)を説明できる店で買うことです。以下、両国のルールに何が書いてあり、何が書いていないかを見ていきます。

要点

  • 「スシグレード」は売り手の言葉です。 調べたアメリカ連邦政府の資料に定義はありません。
  • FDAの寄生虫対策は冷凍です。 たとえば−20°C以下で合計7日間。
  • 日本の「生食用」表示は、腸炎ビブリオという細菌の基準にもとづきます。 読んだ資料には、寄生虫についての要件はありませんでした。
  • 日本の寄生虫対策は別立てです。 厚生労働省は事業者向けに、−20°Cで24時間以上の冷凍か、加熱を挙げています。
  • 養殖サーモンは両国とも特別扱いですが、寄生虫のいない餌で育てた場合に限ります。 どちらの資料も、養殖ならすべて安全とは書いていません。

「スシグレード」とは何か、何でないか

FDAが「スシグレードは規制されていない」と述べた文書を探しましたが、見つかりませんでした。言えるのはもっと狭いことです。この言葉は、FDAの水産食品の危害管理指針(Fish and Fishery Products Hazards and Controls Guidance)の寄生虫の章にも、消費者向けの水産物安全ページにも出てきません。どちらも寿司や刺身を料理として扱い、等級としては扱っていません。

英語圏にも、正しく書いているページはあります。PBS Food の記事「The Myth of Sushi-Grade」(マーク・マツモト)は、英語の原文を訳すと「アメリカではこの言葉の使い方に規制がなく、何にでも使える」と書いています。買い物情報サイト The Grocery Store Guy も「マーケティング用語で、法律の裏付けはない」としています。

ところが同じページは、スシグレードの魚は「USDAの指針にしたがって、獲ったあと船上で急速冷凍される」とも書いています。水産物の寄生虫に関する冷凍の指針を出しているのはFDAで、USDA(米国農務省)ではありません。さらに「華氏マイナス20度で少なくとも30〜48時間」という数字も挙げていますが、これはFDAの3つの選択肢のどれとも一致しません。公平のために言えば、このページはFDAの3つの選択肢自体は正しく載せていて、法律の裏付けがないこともはっきり書いています。このように、正しい説明と誤った説明が一つのページに混ざっていることがあります。


FDAが実際に定めていること

寄生虫を殺すための冷凍

FDAの危害管理指針の第5章は寄生虫を扱い、アニサキスなどの線虫を挙げ、原因となる食品に刺身と寿司を含めています。十分に加熱せずに食べる魚について、冷凍の条件を3つ示しています。温度はいずれも冷凍庫内の空気の温度です。

選択肢FDAの条件
1−20°C以下で冷凍・保管し、合計7日間
2−35°C以下で中心まで凍らせ、そのあと−35°C以下で15時間保管
3−35°C以下で中心まで凍らせ、そのあと−20°C以下で24時間保管

指針には、英語の原文を訳すと「特に大きな魚(たとえば厚さ6インチ超)の冷凍には、これらの条件が適さないことがある」という注意書きがあります。約15cmです。

これは水産加工業者向けの工程管理です。家庭で生食用に魚を冷凍する方法を示したFDAのページは見つからず、この記事でも扱いません。

店や飲食店に届くルール

アメリカの飲食店や小売店は、州や郡の食品衛生規則にしたがいます。たとえば次のとおりです。

  • サウスカロライナ州の小売食品規則は、同じ3つの冷凍条件を挙げています。店が自分で冷凍記録をつける代わりに、所定の温度と時間で「凍らせたことを示す仕入れ先の証明書」でもよいとしています。記録は、各ロットの最後の商品を売ってから少なくとも90日間保管します。
  • アリゾナ州マリコパ郡は、アーカイブされた寄生虫対策のQ&Aで同じ条件を挙げ、仕入れ先の書面には日付を入れ、毎年更新すべきだとしています。

どちらも、二枚貝、一部のまぐろ類、一部の養殖魚(後述)などを冷凍の対象から外しています。ただ、除外の書き方は同じではないので、州ごとに確かめる必要があります。

だから、アメリカの魚売り場で役に立つ質問は「これはスシグレードですか」ではありません。「寄生虫対策の冷凍はしてありますか、どう冷凍しましたか」です。こうした規則のもとでは、生魚を出す事業者は、除外される魚でない限り、仕入れ先の冷凍証明か自分の冷凍記録を持っているはずです。養殖魚なら、育て方と餌についての仕入れ先の書面が必要です。

FDAが消費者に伝えていること

FDAの消費者向けページは、英語の原文を訳すと「それでも生魚を食べるなら、目安のひとつは一度冷凍した魚を食べること」と書き、冷凍すれば「存在するかもしれない寄生虫は死ぬ」としています。一方で「冷凍ですべての有害な菌が死ぬわけではない」とも注意し、「いちばん安全なのは加熱すること」としています。

同じページは、妊娠中の人、子ども、高齢者、免疫の弱い人を、生や加熱不十分の魚介を避けるべき人に挙げ、その例として刺身を挙げています。


日本の「生食用」表示は何を保証しているか

表示のルール

青森県の食品表示法の手引きは、ルールをこう書いています。

生食用のものは、生食用である旨を表示します。 — 青森県 食品表示の手引き

表示例は「生食用」「刺身用」「そのままお召し上がりになれます」など。生食を想定しない冷凍切り身には「加熱用」などと書きます。冷凍したものを解凍して売るなら「解凍」、餌を与えて育てた魚なら「養殖」と表示します。

アメリカの買い物客が「スシグレード」から得られる情報より、ずっと多くのことがわかります。

裏にある基準は細菌のもの

生食用鮮魚介類の成分規格は2001年にできました。厚生労働省の関連文書の題名は、要するに「生食用魚介類加工品による腸炎ビブリオ食中毒の発生防止のための対策」です。この文書と仙台市の食品衛生のページによると、対象は生食用の切り身や刺身、むき身の貝、冷凍の生食用魚介類で、内容は次のとおりです。

項目生食用鮮魚介類の基準
細菌腸炎ビブリオ:最確数が1gあたり100以下
保存10°C以下で冷蔵。冷凍品は−15°C以下
加工飲用適の水でよく洗い、えら・うろこなど汚染されやすい部分を除く
表示生食用である旨。冷蔵品は10°C以下で保存すること

同じ文書の表(1995〜2012年)が背景を示しています。腸炎ビブリオ食中毒の報告は1998年が最多で839件、患者12,318人。基準ができる3年前です。2012年には9件、患者124人まで減っています。

どちらの資料も寄生虫には触れていません。読んだ資料にもとづく限り、「刺身用」の表示は、細菌の基準のもとで生食用として扱われ売られた魚であることを示すもので、冷凍や寄生虫の確認を保証するものではありません。


日本の寄生虫対策:アニサキス

日本で生魚の寄生虫といえばアニサキスです。厚生労働省は幼虫を長さ約2〜3cm、幅0.5〜1mmの、少し太い白い糸のようなものと説明しています。宿主として、さば、あじ、さんま、かつお、いわし、さけ、ひらめ、まぐろ、いかなどを挙げています。

食品安全委員会によると、2023年のアニサキスによる食中毒は432件、患者441人で、報告された全件数の約42%を占め、病因物質として最多でした。アニサキスは1999年の食品衛生法の改正で、食中毒の病因物質に指定されています。

厚生労働省の予防のページは、助言を2つに分けています。

消費者向け: 新鮮な魚を選ぶ。丸ごと買ったら早めに内臓を取る。内臓を生で食べない。目で見て幼虫を取り除く。

事業者向け: 上の内容に加えて、次の2点です。

  • 冷凍:−20°Cで24時間以上
  • 加熱:70°C以上、または60°Cなら1分

家庭での俗説も否定しています。

一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても、アニサキス幼虫は死滅しません。 — 厚生労働省

農林水産省のリスクプロファイルシートでは、2016〜2018年のアニサキス828件のうち、原因食品にさば(推定を含む)が挙がったのが140件、そのうち79件がしめさばでした。

生食用の魚の冷凍を義務づける日本の法律は見つかりませんでした。厚生労働省は、冷凍を事業者向けの予防策として示しています。

日本の「24時間」とFDAの「7日間」はなぜこれほど違うのか

同じ−20°Cで、日本は24時間、FDAは7日間です。差の一部は、どこの温度を測るかによるのかもしれません。厚生労働省の事業者向けの助言は「−20°Cで24時間」とだけ書き、測る場所は示していません。同じページで海外の規制を紹介する部分では、コーデックスの条件を中心温度−20°Cで24時間とし、アメリカの条件を−20°Cで7日間としています。

食品安全委員会のリスクプロファイルが引く研究では、中心温度と冷凍庫の種類の両方が結果を左右しました。ある研究では、さばの幼虫は−20°C設定の冷凍庫で24時間では生き残りましたが、魚の中心が−20°Cに達してから24時間おくとすべて死にました。FDAの7日間は冷凍庫内の空気の温度で測り、魚が凍るまでの時間も含めた合計です。

どちらの数字も事業者向けで、家庭の冷凍庫を想定したものではありません。


養殖サーモンについて公的な資料が言うこと

日本。 農林水産省のアニサキスのリスクプロファイルシートはこう書いています。

寄生虫が存在しない配合飼料を餌とするサケ・マス類養殖技術の確立により、刺身で食べても安全なサケ・マス類の生産が可能となっている。 — 農林水産省

同じシートは、養殖魚6種19尾からアニサキスが見つからなかったと報告しています(魚種は書かれていません)。前提は、寄生虫のいない餌であることです。さけは厚生労働省の宿主の一覧にも入ったままです。

アメリカ。 FDAの寄生虫の章は、餌の生き物から寄生虫をもらう魚種でも、ペレット飼料だけで育てた場合は「同じ寄生虫の危害はないとみられる」とし、加工業者はそうした魚を危害のあるものと「考える必要はない」としています。ただし、ペレットを食べながらときどき天然の餌も食べる魚や、加工くず、生魚、プランクトンを与えた養殖魚には寄生虫の危害がありえます。淡水で育てた魚には吸虫の心配があります。サウスカロライナ州やマリコパ郡の規則も、養殖魚を冷凍の対象から外すのは、仕入れ先が育て方と餌を書面で示した場合に限っています。

つまり、どちらの国でも「養殖だから」だけでは答えになりません。決め手は餌と、その記録です。


売り場でどう使うか

上の機関が言っていることを、買い物の言葉に置き換えたものです。医療上の助言ではありません。

  • 生食用として売られている魚を買う。 日本なら「生食用」「刺身用」の表示。アメリカなら、「スシグレード」のシールではなく、生で食べる前提で売っていると説明できる店です。
  • どう冷凍したかを聞く。 役に立つ答えは、温度と時間を示すか、仕入れ先が記録していると言うものです。冷凍不要と言われたら理由を聞きます。除外されるまぐろ類か、仕入れ先の書面がある配合飼料の養殖魚か、です。
  • 酢、塩、醤油、わさびではアニサキスは死なない(厚生労働省)、冷凍ですべての菌が死ぬわけではない(FDA)ことを覚えておく。
  • 注意すべき人を知っておく。 FDAは、妊娠中の人、子ども、高齢者、免疫の弱い人を、生の魚介を避けるべき人に挙げています。

生で食べるための表示がある別の食品としては、生卵と卵かけご飯の記事もどうぞ。反対に、定義のはっきりした等級の例はA5の和牛と神戸ビーフで書いています。


よくある質問

アメリカの「スシグレード」の魚は、日本の「刺身用」と同じですか。 違います。「スシグレード」は売り手の表現で、調べたアメリカ連邦政府の資料に定義はありません。日本の「生食用」「刺身用」は食品表示のルールにもとづく表示で、裏には腸炎ビブリオの基準があります。

日本の「刺身用」の魚は、寄生虫対策の冷凍がしてあるのですか。 必ずしもそうではありません。細菌を中心とした基準のもとで生食用として売られている、という意味です。冷凍して解凍した魚には、別に「解凍」と表示されます。

アメリカで刺身用の魚を買うとき、何を確かめればよいですか。 「スシグレードか」ではなく、寄生虫対策の冷凍をしたかどうか、どんな温度と時間か、冷凍していないならその理由(除外されるまぐろ類か、記録のある養殖魚か)を聞くのが役に立ちます。

養殖サーモンなら生で食べても安全ですか。 公的な資料の言い方はもっと限定的です。農林水産省は寄生虫のいない配合飼料で育てたサケ・マス類なら刺身で食べられる生産が可能になったとし、FDAはペレット飼料だけで育てた魚には天然魚のような寄生虫の危害はないとみられるとしています。育て方と餌、または冷凍の有無を売り手に確かめてください。


この記事の調べ方

日本側は、厚生労働省のアニサキスのページと生食用鮮魚介類の基準に関する文書、食品安全委員会の2025年のアニサキスのリスクプロファイル、農林水産省のリスクプロファイルシート、青森県と仙台市の資料によっています。アメリカ側は、FDAの水産食品の危害管理指針と消費者向けページ、サウスカロライナ州とアリゾナ州マリコパ郡の小売食品規則によっています。日本語資料からの引用は原文のまま短くとどめ、英語資料からの引用は当サイトで訳しました。「スシグレード」についてのFDAの見解や、日本で生食用の魚の冷凍を義務づける法律のように、確認できなかったことはその旨を書いています。この記事に作り方はなく、医療上の助言でもありません。

参考資料

日本の公的資料:

アメリカの公的資料(英語):

英語圏の例:


この記事は、シリーズ英語の日本料理レシピは何を間違えているのかの一本です。

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