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アメリカの「A5和牛」「Kobe」は何を指すか:格付・品種・地名の取り違え

アメリカのメニューや精肉売り場では、A5、Wagyu、Kobe がほぼ同じ意味で使われています。日本の格付規格、和牛の定義、神戸ビーフの地理的表示、アメリカの表示ルールを並べて違いを確かめます。

黒っぽいまな板にのった厚切りの生の和牛サーロイン。赤身の全体に細かい白いさしが入っている。

アメリカのメニューや精肉売り場では、「A5」「Wagyu」「Kobe」が、どれも「最高にさしの入った特別な牛肉」を言い換えた言葉のように使われています。日本では、この3つはまったく別のもので、決めているルールもそれぞれ違います。

整理するとこうなります。A5は格付で、日本食肉格付協会が枝肉につけます。和牛は品種の区分で、農林水産省が4つの在来品種とその交雑種と定めています。神戸ビーフは地名の保護された名前で、地理的表示(GI)として登録され、血統、性別、月齢、重量、肥育と処理の場所、格付の条件があります。神戸ビーフはA5とは限りません。そしてアメリカの表示の「Wagyu」は、さらに別のルールに従っています。

3つの言葉の関係

言葉何を表すか誰が定めるか
A5枝肉の格付(歩留等級A、肉質等級5)日本食肉格付協会
和牛4つの和種とその交雑種の牛肉農林水産省
神戸ビーフ兵庫県で育った但馬牛のうち、格付の条件を満たすものの地理的表示神戸肉流通推進協議会が農林水産省に登録

決まった向きのつながりは一つだけで、神戸ビーフはすべて和牛です。あとは互いに独立しています。A5は原則としてどの品種の枝肉でも取りうる格付で、和牛は品種の表示、神戸ビーフは和牛の一部だけが名乗れる名前です。

A5:アルファベットは歩留まり

格付は、全国の食肉市場や食肉センターで格付を行う公益社団法人日本食肉格付協会が行います。農林水産省の広報誌『aff』は、まずこう説明しています。

「アルファベットは「歩留等級」を表します。」 — 農林水産省『aff』2016年8月号

数字は肉質等級で、組み合わせはA5からC1までの15通りです。

歩留等級は、枝肉からとれる部分肉の量の見込みです。ロース芯面積、ばらの厚さ、半丸枝肉の冷屠体重量、皮下脂肪の厚さから歩留基準値を計算し、72以上がA、69以上72未満がB、69未満がCです。和牛4品種とその交雑種には、この値に一律2.049が加算されます。A5の「A」は味ややわらかさとは関係がなく、しかも和牛には計算式の上で上乗せがある、ということです。

A5:数字は4項目のうち最も低いもの

肉質等級は、第6〜第7肋骨間の切開面で、脂肪交雑(BMS、12段階)、肉の色沢(BCS)、肉の締まりときめ、脂肪の色沢と質(BFS)の4項目を判定します。

「肉質等級の決定は、脂肪交雑、肉の色沢、肉の締まり及びきめ、脂肪の色沢と質の4項目について判定し、その項目別等級のうち、最も低い等級に決定して格付する。」 — 日本食肉格付協会

肉質等級脂肪交雑(BMS)肉の色(BCS)脂肪の色(BFS)
5No.8〜12No.3〜5No.1〜4
4No.5〜7No.2〜6No.1〜5
3No.3〜4No.1〜6No.1〜6
2No.2No.1〜7No.1〜7
1No.12〜5以外2〜5以外

締まりときめは数値ではなく言葉で判定し、等級5は締まりが「かなり良いもの」、きめが「かなり細かいもの」です。

つまり、BMS12のさしがあっても肉の色が等級5の範囲から外れれば5にはなりません。またA5には幅があり、BMS8とBMS12はどちらも等級5です。

A5は「味」の格付でも、珍しいものでもない

『aff』は「A5ランク」が高級牛肉の代名詞になっていると書いています。ただ、規格が測るのは歩留まり、さし、色、締まり、きめ、脂肪で、食べて味をみる項目はありません。品種が関わるのも、和牛への2.049の加算だけです。肉質等級そのものは品種によらず、どの品種も同じ尺度で格付されます。

和牛のなかでは珍しくもありません。日本食肉格付協会の結果を農畜産業振興機構(ALIC)がまとめた資料によると、2025年に格付された和牛去勢の枝肉の71.7%がA5でした。2021年は53.3%です。2025年に格付された牛全体(936,561頭)では、A5は36.6%でした。

英語の料理サイト Chowhound は、A5を「もともと質の高い肉のなかでも、文句なしに最高の品質」と書いています(英語の原文を訳したもの)。尺度の頂点という意味では正しいのですが、日本の和牛去勢ではA5がいちばん多い等級であること、尺度が食味を直接測っていないことには触れていません。

和牛の定義

農林水産省は和牛をこう定義しています。

「「和牛」とは、牛の品種に着目した区分で、日本で長い時間をかけて品種改良されてきた黒毛和種などの4品種と、それらの交雑種のみです。」 — 農林水産省『aff』2016年8月号

黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4つで、それ以外は和牛と表示できません。黒毛和種と乳用種の交雑牛は、片親が4品種でないため和牛ではありません。

2016年の同じ記事は、日本で飼われる和牛の9割以上が黒毛和種だとしていました。「古来の品種」という宣伝で抜け落ちがちな点にも触れていて、黒毛和種は明治時代に外国種との交配で改良され、1944年に在来の肉専用種として認められました。

2007年からは、表示のルールが品種以外にも及んでいます。確認できたガイドラインの本文は、農林水産省の食肉の表示に関する検討会が2007年3月20日にとりまとめたもの(表題は「案」のまま)です。国内で生まれ育ったこと、品種を家畜登録で証明できること、品種と履歴を牛トレーサビリティ制度の個体識別番号で確認できることを求めています。JETRO も、2007年から日本で販売される和牛は国内で生まれ育った牛に限られ、10桁の個体識別番号で品種を確認できる必要があると説明し、外国産の牛肉を日本に持ち込んで和牛として売ることはできないとしています。熊本県は消費者向けに、包装の個体識別番号を検索して品種の欄を見れば和牛かどうか確かめられると案内しています。

神戸ビーフの条件

神戸ビーフは、和牛よりずっと狭い名前です。地理的表示の登録番号第3号で、2015年12月22日に登録されました。登録生産者団体は1983年設立の神戸肉流通推進協議会で、設立以来、神戸ビーフの定義を管理しています。登録された名称は、神戸ビーフ、神戸肉、神戸牛、KOBE BEEF です。

2026年4月1日更新の明細書の条件は次のとおりです。

項目神戸ビーフの明細書
血統但馬牛(兵庫県の種雄牛のみで代々繁殖された牛)
性別未経産の雌牛、または去勢牛
月齢28〜60か月
肥育出荷まで兵庫県内で肥育
処理兵庫県内の食肉センター(神戸、加古川、姫路、西宮、三田、但馬。共進会などの例外あり)
格付歩留等級AまたはB、肉質等級4以上
脂肪交雑BMS No.6以上
枝肉重量雌270〜499.9kg、去勢300〜499.9kg

明細書は但馬牛を、他県の和牛と交配せずに守られてきた和牛の系統と説明しています。神戸ビーフがすべて和牛なのはこのためです。

神戸ビーフはB4でもよい

格付の条件は「AまたはB、4以上」、BMS6以上です。肉質等級4はBMS5〜7なので、等級4ならBMS6か7が必要です。神戸ビーフになりうる格付はA5、B5、A4、B4の4つです。

「神戸ビーフは必ずA5」は誤りで、「神戸はA4とA5の牛肉のブランド名」も不十分です。後者を書いているのは、アメリカの食肉通販 Crowd Cow の2017年のブログ記事です。この記事は重量の上限を470kgとし、去勢牛だけに触れています。470kgは当時のルールで、農林水産省の登録簿によると、2019年6月14日に上限が499.9kgに引き上げられ、下限も上がりました(雌230kgから270kg、去勢260kgから300kg)。現在の明細書は雌牛も対象とし、B等級も認めています。

逆に、A5の和牛の大半は神戸ビーフではありません。兵庫県外のA5の黒毛和種は同じ尺度で格付されますが、兵庫県で肥育・処理された但馬牛ではないので、神戸ビーフとは名乗れません。

アメリカの表示の「Wagyu」

アメリカでは、食肉の表示は農務省(USDA)の食品安全検査局(FSIS)が承認します。FSIS は「Wagyu」を「Angus」や「Hereford」と同じ品種の表示として扱っています。2024年8月の飼育方法の表示に関するガイドラインは、「Wagyu」と「American Kobe」を例に挙げていますが、特別なルールは設けていません。

品種の表示の裏付けとして、ガイドラインは、署名と日付のある書類(品種登録団体の証明書など)、製品の追跡と区分の方法の説明、表現型(毛色など)か遺伝型による裏付けを求めています。遺伝型については「品種登録団体に登録された親1頭、または祖父母2頭までさかのぼれる」動物としています(英語の原文を訳したもの)。

和牛の血の割合の下限はありません。ガイドラインは規則ではなく指針で、第三者認証を「強く推奨」していますが、書かれているかぎりでは、アメリカの「Wagyu」表示から和牛の血がどれだけ入っているかはわかりません。

USDA の農業マーケティング局(AMS)が公開している米国和牛協会(AWA)の仕様は、もう少し細かく分けています。

AWA の区分和牛の血の割合確認方法
Fullblood100%AWA を通じて父母とも DNA で親子確認
Purebred93.75%以上AWA を通じて父母とも DNA で親子確認
Wagyu influence / American Wagyu のプログラムAWA 登録の Fullblood か Purebred の親が少なくとも1頭(割合の下限の記載なし)登録証明書、宣誓書など

AWA によると、和牛が初めてアメリカに渡ったのは1975年で、1990年代にも輸出され、その後日本が和牛の遺伝資源の輸出を止めました。アメリカの和牛には交雑も含まれ、AWA 自身も、交雑で分娩の容易さと上質な枝肉を一度に得られると説明しています。

アメリカンワギュウは独自の育種計画を持つ正当な牛肉で、偽物というわけではありません。ただ、アメリカの表示の「Wagyu」と日本の和牛は別の主張で、「American Kobe」は日本の神戸ビーフの地理的表示の対象外です。

USDA の格付は別の尺度

アメリカの牛肉は、日本の規格ではなく USDA の格付(Prime、Choice、Select)で評価されます。USDA は Prime を「豊富なさし」、Choice をそれより少ないものと説明しています。2つの尺度は測るものも測り方も違い、USDA の説明にも日本の規格にも、A5と Prime の換算はありません。

USDA 認証の Wagyu プログラムも、その尺度のどこにでも入りえます。USDA が承認した Wagyu プログラムの仕様 G-144 は、U.S. Prime、Choice、Select のいずれかに格付され、さしの評価が「Slight」以上の枝肉を受け入れています。認証された Wagyu でも、Prime とは限らず、ましてA5ではありません。

アメリカで表示を見るときは

  • 「A5」 は日本の枝肉の格付です。歩留基準値72以上、BMS8〜12、色・締まり・きめ・脂肪が等級5の範囲。品種や産地、範囲内のBMSはわかりません。BMSが気になるなら店に尋ねるとよいでしょう。
  • 「Japanese wagyu」 は、4品種かその交雑種で、日本で生まれ育った牛のはずです。日本では10桁の個体識別番号と結びついていますが、アメリカで売られる輸出品にその番号が示されるのか、どう示されるのかは確認できていません。
  • 「Kobe Beef」 は明細書を満たす但馬牛のはずで、A4、B4、A5、B5のいずれかです。
  • アメリカ産の「Wagyu」「American Wagyu」 は FSIS が承認した品種の表示で、割合の下限はありません。割合が気になるなら、AWA の区分(Fullblood、Purebred)や USDA のプログラム名を探してください。

英語圏の資料が日本の定義からずれていく例は、英語の日本料理レシピは何を間違えているのかにもまとめています。

よくある質問

アメリカで「A5 Wagyu」と書かれた肉は日本の和牛ですか。

「A5」は日本食肉格付協会の格付なので、日本で格付された枝肉を指すはずです。ただし品種と産地を示すのは「A5」ではなく「和牛」の部分です。アメリカ産の「Wagyu」は FSIS の品種の表示で、日本の和牛の定義とは別物です。

神戸ビーフはすべてA5ですか。

いいえ。明細書の条件は歩留等級AかB、肉質等級4以上、BMS6以上で、A5、B5、A4、B4のいずれかです。

「American Kobe」は神戸ビーフですか。

違います。FSIS は「American Kobe」を品種の表示の例として扱っていて、日本の神戸ビーフの地理的表示の対象ではありません。

アメリカンワギュウはどのくらい和牛の血が入っていますか。

表示だけではわかりません。FSIS の指針には割合の下限がありません。AWA の区分では Fullblood が100%、Purebred が93.75%以上です。

この記事の調べ方

日本語の一次資料によっています。日本食肉格付協会の牛枝肉取引規格、農林水産省の地理的表示の登録簿と神戸ビーフの明細書、広報誌『aff』、2007年の和牛の表示ガイドライン、ALIC の年次格付結果、熊本県の消費者向けページで、JETRO の輸出向けページで照合しました。アメリカのルールは USDA の FSIS と AMS、米国和牛協会の資料によります。ネットで読める2007年のガイドラインは表題が「案」のままなので、その内容を JETRO の説明と照らし合わせました。この記事のために牛肉を試食・検査はしていません。

参考資料

日本語の資料:

アメリカの資料:

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