日本の食材、アメリカのスーパー

だしは「フィッシュストック」ではない:英語のレシピと日本のメーカーの取り方

英語圏ではだしがよく「fish stock(魚のストック)」と訳されます。けれども日本のメーカーのだしは短時間の抽出で、魚を使わないだしもあります。英語のレシピとにんべん、ヤマキ、キッコーマンの方法を比べます。

木の調理台の上に、澄んだ淡い金色のだしが入った小鍋。そばに昆布とふんわり盛ったかつお節が置かれている。

英語のレシピでは、だしはよく「fish stock(魚のストック)」と訳されます。アメリカの公共放送PBSの料理サイトに載った料理人・新保博子さんのレシピも、題名は「Dashi: Japanese Fish Stock」です。合わせだしにはかつお節を使うので、気持ちはわかります。ただ、この訳は範囲が狭すぎるうえ、作り方まで間違った方向に導きます。

英語の「stock」は、煮出したものを思わせる言葉です。一方、日本のメーカーが示す家庭の標準的な方法では、昆布は沸騰前に取り出し、かつお節は火を止めてから1〜2分浸すだけ。昆布だけ、干ししいたけ、植物性の材料だけのだしもあります。

要点

  • だしは長時間の煮出しではなく、抽出です。 にんべん、ヤマキ、キッコーマンはいずれも水約1リットルに昆布10g、かつお節20gで、かつお節は火を止めて1〜2分浸します。
  • 魚を使わないだしもあります。 昆布だし、しいたけだし、精進だしです。
  • うま味の相乗効果が設計の中心です。 昆布のグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸。組み合わせると、単独よりはるかに強く感じられます。
  • 顆粒だしは別の製品です。 日本の「ほんだし」の原材料表示は、食塩が先頭です。

「fish stock」という訳の何が問題か

米国の辞書メリアム・ウェブスターは、stockを「肉、魚、野菜を煮て、スープやグレービー、ソースのベースにする液体」と定義しています(英語の原文を訳したもの)。この定義なら、かつおのだしもゆるく言えば「魚のストック」です。それでも、だしをすべて「fish stock」と呼ぶと問題が2つ出てきます。

ひとつは、魚を使わないだしが抜け落ちることです。

植物性の材料のみを用いてとるだしは精進だしと呼ばれ — 世界大百科事典(平凡社)、コトバンクより

もうひとつは、「stock」という言葉が「煮込む」ことを連想させる点です。日本のメーカーの標準的な方法では、昆布は沸騰前に出し、かつお節は火を止めてから入れます。

とはいえ、PBSのレシピそのものが間違っているわけではありません。新保さんは昆布を沸騰直前まで温めて10分煮てから、かつお節を入れて火を止め、2分おきます。日本の資料にある「煮出す」家庭の方法に近く、時間は長めです(フジッコは沸騰直前の火加減で2〜3分)。また日本のメーカーは、かつお節を入れる前に火を止めます。問題は題名だけです。

うま味はどこから来るか

主なうま味成分は、それぞれだしの材料と結びついています。うま味インフォメーションセンターの整理は次のとおりです。

成分主なだしの材料発見
グルタミン酸昆布池田菊苗。乾燥昆布から(同センターは2008年を100周年としています)
イノシン酸かつお節小玉新太郎、1913年
グアニル酸干ししいたけヤマサの國中明、1957年。のちにしいたけのうま味成分と判明

國中はさらに、グルタミン酸とイノシン酸・グアニル酸の強い相乗効果を見つけました。同センターは効果の大きさをこう書いています。

両者を混ぜると7-8倍うま味が強くなるのです。 — うま味インフォメーションセンター

ここでの「両者」はグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸(IMP)です。混ぜる比率によって効果は変わり、IMPの割合を上げすぎると弱まるとも注記しています。同センターのだしのページでは、一番だし(昆布とかつお節)のうま味成分は昆布だしの約2倍なのに、感じる強さは濃度から予想される7〜8倍になると説明しています。昆布と干ししいたけを合わせれば、同じ原理を魚なしで使えます。

日本のメーカーとアメリカのレシピを比べる

合わせだしの取り方を、メーカー3社とPBSのレシピで並べます。

出典水昆布かつお節昆布を浸す時間昆布を出すタイミングかつお節
にんべん1000mL10g20g30〜60分鍋底から小さな泡が出たら(約80°C)沸騰後に火を止め、2分おく
ヤマキ1L約10g約20g約1時間弱火で、沸騰直前沸騰後に火を止め、1〜2分、沈むまでおく
キッコーマン1000mL(5カップ)10g20g30分中火で、沸騰直前沸騰後に火を止め、約2分おく
PBS(新保博子)2クォート(約1.9L)6インチ角1枚ぎゅっと詰めて1カップなし沸騰近くで約10分煮てから入れて10数え、火を止めて2分おく

メーカー3社は2点で一致し、にんべんとヤマキはもう1点を加えています。

  1. 昆布は沸騰前に出す。 にんべんは、昆布を煮立てるとだしの風味が落ちると注意しています。
  2. かつお節は火を止めて短く浸す。 1〜2分ほど(ヤマキは沈むまで)。
  3. 静かにこす。 にんべんもヤマキも、ゆっくりこすよう書いています。にんべんはかつおだしについて、こう添えています。

えぐみが出てしまうので、鍋に鰹節を入れる時はかき混ぜず、こす時は鰹節を絞らないでください。 — にんべん

アメリカのレシピも見てみます。料理人ビリー・パリシ(Billy Parisi)さんの「Dashi Recipe」は、説明文で「本格的でうま味豊かな日本のストック」をうたい、昆布を「弱火〜中火で20分煮る」よう指示しています。昆布を出したあとはかつお節を入れ、「沸騰させてから弱火で5分煮る」(いずれも英語の原文を訳したもの)。薄削りのかつお節に対しては、メーカーの方法より長く、高い温度です。

長く煮る方法にも出番はあります。にんべんは厚削りのかつお節を15〜20分煮出しています。

作り方:合わせだし(昆布とかつお節)

にんべんが公開している合わせだしの取り方をもとにしています。約800mL分。ほかの資料の注意点は手順のあとにまとめました。

かつお節は量るのがおすすめです。英語のレシピでは「ぎゅっと詰めて」「ふんわり詰めて」とカップの計り方がまちまちです。またアメリカのカップは236.6mLで、日本の200mLとは違います(アメリカの台所で日本のレシピを作る)。

材料

  • 水 1000mL
  • だし昆布 10g(キッコーマンによると、約3×25cmの1枚)
  • かつお節(薄削り) 20g

作り方(にんべん)

  1. 浸す。 鍋に水と昆布を入れ、30分〜1時間おきます。
  2. 火にかけ、早めに昆布を出す。 鍋底から小さな泡が上がってきたら(約80°C)火を止め、昆布を取り出します。
  3. 沸かしてから火を止める。 再び火にかけて沸騰したら火を止め、かつお節を入れます。
  4. 2分おきます。
  5. 静かにこす。 ざるにキッチンペーパーか布巾を敷いてボウルに重ね、ゆっくり注いでこし、1分ほど自然に落とします。

ほかの資料の注意点

  • 浸す前に(ヤマキ、フジッコ): ヤマキは、固く絞ったぬれ布巾で昆布を軽くふきます。フジッコは、表面の白い粉は自然な甘み成分のマンニットなので、ほこりや砂を落とすだけでよいとしています。
  • 混ぜない、絞らない(にんべん、かつおだし): 上の引用のとおりです。
  • 浸す時間(ヤマキ): 1〜2分、かつお節が底に沈むまで。

一番だしと二番だし

にんべんによると、二番だしは一番だしより香りはやや弱いものの、一番だしで出きらなかったうま味が残っています。

にんべんの二番だしは、かつおだし(水1000mLにかつお節30g)の一番だしで使った30gのだしがらを前提にしています。合わせだしの残り20gを使う場合の分量は示していません。

  • だしがら30gと水500mLを鍋に入れて沸騰させ、弱火で3〜5分煮て火を止めます。
  • 新しいかつお節4.5〜5gを加え、1〜2分おきます。
  • こして1分ほど落としたら、軽く絞ります。 一番だしと違い、ここでは絞ってかまいません。
  • 約440mLできます。

にんべんがすすめる使い分けは次のとおりです。

向く料理
一番だしお吸い物、みそ汁、茶碗蒸し、そば・うどんのつゆ
二番だし煮物、炊き込みご飯、鍋物

みそ汁に合わせるみその選び方は、日本のみその種類で書いています。

昆布だけのだし

日本の資料には、昆布だけのだしの取り方が3通りあります。

料亭の方法:60°Cで1時間。 フジッコは昆布の食育資料で、これを京都の料亭のやり方として紹介しています。大きな鍋に水と昆布1枚を入れ、60°Cでゆっくり1時間加熱すると、いちばんよいだしがとれるといいます。うま味インフォメーションセンターと三菱電機のCMEサイトも同じ温度と時間を挙げています。三菱電機は水1リットルに昆布30gとし、温度を上げすぎるとぬめりが出るので、1時間たつ前でも温度が上がりそうなら加熱をやめるよう書いています。温度計などで見守る必要があります。

家庭で煮出す方法。 フジッコは水1リットルに昆布20g。30分〜1時間浸してから火にかけ、沸騰直前に火を弱めて、あくを取りながら2〜3分煮ます。沸騰する前に昆布を出す理由はこうです。

沸騰させると、えぐみ(苦味・渋み・雑味)の原因になり、風味が損なわれます。 — フジッコ

ただし、日本の資料もすべてが同じではありません。キッコーマンの昆布だしは、水約1000mL(5カップ)に昆布15〜20gを入れて沸騰させ、やや火を弱めて7〜8分煮ます。昆布を煮るのはこの昆布だけのだしで、かつお昆布だしでは、キッコーマンも沸騰直前に昆布を出しています。

水出し。 フジッコは水1リットルに昆布20gを入れて冷蔵庫に置くだけ。キッコーマンは一晩おき、にごるので長くても一晩で昆布を出すよう書いています。

精進だし:昆布と干ししいたけ

魚を使わずに相乗効果を得るなら、昆布(グルタミン酸)と干ししいたけ(グアニル酸)の組み合わせです。

NHK「みんなのきょうの料理」の枝元なほみさんのレシピをもとにしています。元のレシピは「あれば」煮干し4gを加えますが、ここでは入れていません。

材料

  • 干ししいたけ 4〜5枚
  • 昆布 7cm角1枚
  • 水 約800〜1000mL(4〜5カップ)

作り方

  1. 清潔な容器に水、干ししいたけ、昆布を入れ、冷蔵庫で一晩おきます。
  2. その液をだしとして使います。味が濃すぎるときは水で薄めます。

なぜ冷水なのか。三菱電機のCMEサイトのインタビューで、大分県椎茸農業協同組合は、干ししいたけが水を吸うあいだに、グアニル酸を作る酵素と分解する酵素が働き、ぬるま湯や常温の水では分解のほうが勝ってしまうと説明しています。すすめるのは冷蔵庫での水戻しです。

時間の目安は12~24時間。 — 大分県椎茸農業協同組合(三菱電機CMEのインタビュー)

顆粒だしについて

日本の表示(味の素の製品ページ): 食塩、糖類(砂糖、乳糖)、風味原料(かつおぶし粉末、かつおぶしエキス)、酵母エキス、酵母エキス発酵調味料/調味料(アミノ酸等)。食塩相当量は1g当たり0.40gで、これはみそ汁1杯分の使用量として示された量です。アレルゲンは乳成分です。

アメリカの表示: アメリカの小売店(H-E-B)の商品ページでは、食塩の次、2番目にグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate)が書かれています。味の素のアメリカ向けページでは確認できませんでした。

台所で気をつけたいのは次の点です。

  • 顆粒だしには塩分が入っています。 上の方法でとっただしに塩は入っていません。顆粒に置き換えるなら、醤油や塩、みそを全部入れる前に味見を。淡口醤油が塩分控えめではない理由は日本の醤油の種類で書いています。
  • ほんだしは精進ではありません。 かつおと乳糖(乳)を含みます。
  • アメリカではMSGは名前で表示されます。 FDA(米国食品医薬品局)は、加えたMSGを「一般に安全と認められる」(GRAS)物質としたうえで、原材料表示に「monosodium glutamate」と書くよう求めています。

配合は製品や国によって違うので、パッケージで確かめてください。

関連記事:3つのうま味成分はグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸の解説、「化学調味料無添加」と「No MSG」は日米のMSG表示の話です。

よくある質問

英語圏では、だしはどう説明されていますか。 「fish stock(魚のストック)」とよく訳され、PBSの料理サイトのように題名にそう書くレシピもあります。アメリカのレシピには、昆布を20分煮て、かつお節も5分煮るものもあります(ビリー・パリシさんのレシピ)。日本のメーカーの方法より長く、高い温度です。

「fish stock」という訳は間違いですか。 半分は当たっています。かつおを使う合わせだしは魚を含みます。けれども昆布だし、しいたけだし、精進だしは動物性の材料を使いません。かつおのだしでも、日本のメーカーの標準的な方法は、西洋のストックのように煮込まず、火を止めて短く浸すものです。

昆布は煮立ててもいいのですか。 日本の資料でも意見が分かれます。フジッコとにんべんは沸騰前に出すよう書いています(フジッコはえぐみ、にんべんは風味が落ちることを理由にしています)。キッコーマンの昆布だけのだしは沸騰後7〜8分煮ますが、かつお昆布だしでは沸騰直前に昆布を出します。

ほんだしは精進料理に使えますか。 使えません。かつおを含み、乳糖(乳)も入っています。

この記事の調べ方

作り方、分量、時間は日本語の資料によっています。かつお節メーカーのにんべんとヤマキ、キッコーマン、フジッコ、三菱電機のCMEサイト、うま味インフォメーションセンター、コトバンクの世界大百科事典、NHKのレシピです。味の素の表示は日本の製品ページから、アメリカでの原材料の順番はアメリカの小売店の商品ページからとり、味の素のアメリカ向けページでは確認できていません。アメリカの表示ルールはFDAによります。日本語資料からの引用は原文のまま、短くとどめています。作り方はにんべんと枝元なほみさんのレシピをもとにしたもので、当サイトの台所では試していません。分量がカップで書かれた日本のレシピは200mLとして扱いました。昆布を煮立てるかどうかのように資料どうしで食い違う点は、その旨を書いています。

参考資料

日本のメーカー:

うま味の科学、事典、レシピ:

アメリカと英語の資料:


この記事は、シリーズ英語の日本料理レシピは何を間違えているのかの一本です。

「日本の食材、アメリカのスーパー」のほかの記事