翻訳で消えたもの

「みりんの代わりに米酢」は誤り:英語のレシピが勘違いしていること

英語圏では「みりんがなければ米酢に砂糖」という代用法が定番です。酸味のないみりんに酢を足す誤りと、アメリカで「mirin」として売られている瓶の中身、日本の資料が勧める代わりを確かめます。

木のカウンターに置かれた小さなガラスの器に、澄んだ淡い金色のみりん。後ろにラベルのない瓶と、米こうじの山がある。

英語で「mirin substitute(みりんの代用)」と検索すると、決まって出てくる助言があります。「米酢に砂糖を少し混ぜる」。レシピ記事にも料理の掲示板にも、何度も登場します。

日本の台所の感覚からすると、方向がまるで逆です。しかもいちばんわかりやすい手がかりは、日本のメーカー自身が出しています。甘味料に酢を加えた製品は日本にも実際にあり、それはみりんとは別の名前、別の法的な区分で売られているのです。

要点

みりんは甘い酒であって、甘い酢ではありません。特徴は、アルコール(約14%)と、発酵で生まれる多くの種類の糖(約45%)です。酸味はみりんの設計に入っていません。

米酢で代用すると、大さじ1あたり少なくとも約0.6gの酢酸が、もともと酸味を前提にしていない料理に加わります。みりんに近づくのではなく、みりんにない味を持ち込むことになります。

代わりには酒と砂糖を使います。 みりん大さじ1に対して、酒大さじ1と砂糖約4〜6g(上白糖なら小さじ1強〜2)。詳しくは後で書きます。


英語圏で知られていないみりんの2つの性格

国税庁の『酒税のしおり』は、みりんの定義をこうまとめています。

米、米こうじに焼酎又はアルコールを加えてこしたもの(アルコール分が15度未満でエキス分が40度以上等のもの) — 国税庁『酒税のしおり』2025

日本の読者にはなじみのある話ですが、英語圏の料理好きはこの2点をほとんど知りません。

一つは、みりんが法律上は酒だということ。 日本では酒類の販売免許がある店でしか売れず、酒税がかかり、食品の軽減税率の対象外です。売り場がどこであれ、法律上は酒です。

もう一つは、エキス分40度以上とは100mLあたり40g以上の不揮発成分を意味し、その大半が糖だということ。 宝酒造の技術資料によると、実際の糖分は約**45%で、その約80%**がブドウ糖です。残りは麦芽糖、イソマルトース、パノース、さらに長いオリゴ糖です。

そして英語のレシピがいちばん見落としているのが、伝統的な本みりんでは、その糖を誰も加えていないことです。全国味淋協会によると、もち米、米こうじ、焼酎や醸造アルコールを合わせて糖化・熟成させる期間はふつう40〜60日で、伝統的な蔵ではもっと長く寝かせることもあります。そのあいだに、こうじのアミラーゼがでんぷんを糖に、プロテアーゼがたんぱく質をアミノ酸に分解します。甘さは、何週間もかけて酵素が米から作るものです。

(日本で売られているキッコーマンのマンジョウ本みりんのように、原材料に糖類を併記する量産品もあります。それでも本みりんの中心は、酵素による米の分解です。)

30秒で混ぜ合わせたものが同じにならないのは、このためです。


なぜ酢は逆方向なのか

みりんの酸はごく弱い

みりんにも有機酸は含まれています。多いのは乳酸で、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸が続きます。ただし微量成分で、甘みやうま味の下で味に奥行きを与える程度です。酸っぱさとしては感じません。二次資料によるとpHは5前後で、酢の鋭さとはまったく違います。

米酢は正反対の調味料です。醸造酢の日本農林規格(JAS)は、穀物酢の酸度を4.2%以上と定めています。酢にとって酸は脇役ではなく、製品の目的そのものです。

英語のレシピにある「米酢大さじ1+砂糖小さじ½=みりん大さじ1」は、もともと酸がほとんどない料理に、少なくとも約0.6gの酢酸を足すことになります。煮物や照り焼きのたれなら、全体の味の釣り合いが変わります。

アルコールは揮発しやすく、魚や肉の臭みのもとを連れて飛んでいきます。酢の酸はアルコールのようには鍋から抜けないので、酸味はそのまま料理に残ります。

甘さの質も違う

酸を別にしても、砂糖だけの代用ではみりんの甘さの性格は出ません。砂糖(ショ糖)を100とすると、甘さは次のとおりです。

糖相対的な甘さ
ショ糖(砂糖)100
ブドウ糖(みりんの糖の約80%)70
オリゴ糖30〜40

キッコーマンは、みりんの甘さはブドウ糖やオリゴ糖など、やさしい甘さの複数の糖でできていて、上品でまろやかな甘さが砂糖や単一の糖より長く続く、と説明しています。

ただ、差はわずかです。後で紹介する日本の比較では、砂糖のほうが後味にわずかに甘さが残りました。違いは確かにありますが、性格の違いであって、劇的な差ではありません。


酢入りの製品は「みりん」と名乗っていない

日本の表示では、みりんに似た製品は3つに分かれます。

本みりんみりん風調味料発酵調味料(塩みりん)
法的な区分酒類食品食品
アルコール約14%1%未満約10〜11%
塩分なしなし約2%
酒税ありなしなし
消費税10%8%8%
販売免許必要不要不要

ミツカン「ほんてり」の原材料表示を見てみます。

水あめ(国内製造)、米および米こうじの醸造調味料、醸造酢/酸味料

糖のシロップを土台にした製品に、醸造酢と酸味料が入っています。

英語圏の代用法がいう「甘味料+酢」に近いものを、日本のメーカーは実際に作っています。そしてそれは別の区分、別の名前で売られています。本みりんと名乗れないのは、酢のせいではなく、アルコールと発酵が欠けているからです。それでも、酢入りの製品がみりんとは別物として売られているという事実は示唆的です。

日本の言葉でいえば、米酢に砂糖は「手作りのみりん風調味料」の粗い版で、本みりんの代わりではありません。


アメリカの「mirin」の大半は本みりんではない

代用を考える前に、アメリカの台所にある瓶がそもそも何なのかを見ておきます。

商品(アメリカ市場)表示されている原材料アルコールナトリウム(大さじ1あたり)
Kikkoman Manjo Aji-Mirinブドウ糖シロップ、水、アルコール、米、コーンシロップ、食塩8%約90mg(大さじ2で180mg)
Kikkoman Kotteri Mirinコーンシロップ、高果糖コーンシロップ、水、発酵米調味料(水、米、コーンシロップ、アルコール、食塩)、酢、安息香酸ナトリウム記載なし5mg
Takara Mirin (Gourmet Seasoning Sake)酒、コーンシロップ、ブドウ糖、水12%ウェブ上に記載なし
Eden Foods Mirin水、米、こうじ(Aspergillus oryzae)、海塩記載なし130mg

日本の区分に当てはめて読み直すと、次のことがわかります。

  • 4つのうち3つにコーンシロップが入っています。 その糖は、こうじが何週間もかけて作ったものではなく、加えられたものです。
  • 4つのうち3つに食塩が入っています。 日本では、塩を加えること(不可飲処置)が酒類の区分から外れる仕組みです。Eden のみりんは大さじ1あたりナトリウム130mgで、食塩約0.33g、およそ2%にあたり、日本の塩みりん系の発酵調味料と同程度です。Aji-Mirin は大さじ1あたり約90mg。Kotteri Mirin は食塩が中間原料の中にあり、表示は大さじ1あたり5mgです。
  • 1つは酢と高果糖コーンシロップを含み、アメリカで「mirin」として売られています。
  • 日本の本みりんの姿に合うものは一つもありません。 塩を含まず、糖は主にこうじが作り、アルコールは約14%、という条件です。

陰謀というより、本物のみりんが酒であることの構造的な結果です。多くの製品はアルコールを減らすか、塩を加えるか、その両方をしています。Takara はアルコール12%で塩の記載がなく、公式オンラインストアでは21歳以上でないと買えません。ただし糖は、こうじが作ったものではなくコーンシロップとブドウ糖です。

アメリカで料理する人への実用的な助言は、ナトリウムの欄を確かめることです。大さじ1あたり130mg(Eden)や約90mg(Aji-Mirin)なら塩分が積み重なるので、醤油を控えめにします。Kotteri の5mgは気にしなくてかまいません。原材料の最初にコーンシロップがあれば、それは米の酒ではなく甘味料で、後に書くアルコールの働きは期待できません。


みりんが鍋の中でしていること

働きは4つあり、代用で残るのはその一部です。

1. つや。 いちばん目につく働きです。キッコーマンは理由を3つ挙げています。分子の大きいオリゴ糖が表面をコーティングする、その保水力で水の蒸発を防ぐ、粘度が高く調味液が表面に残る。砂糖と酒より照りが出やすいとしています。さわらの照り焼きで光沢を測った例があります。

調味料光沢度
みりん+醤油180
砂糖+酒+醤油152
砂糖+醤油132

(民間のみりん情報サイト「本みりん研究所」が、森田日出男『みりんの知識』(幸書房)141ページを引いて紹介したデータ。測定方法は書かれていません。)

ただし、どの比較でも見た目に大きな差が出るわけではありません。後で紹介する比較では、砂糖と酒の版もよくつやが出ていました。

2. 煮崩れを防ぐ。 野菜が煮崩れるのは、細胞どうしをつなぐペクチンが溶け出すためです。宝酒造の資料は、アルコールが加熱中のペクチンの溶出を抑えるとし、「アルコールを単独で使用するよりも、糖と共に用いることで、より効果的に煮崩れを防止することができる」と書いています。電子顕微鏡写真では、みりんで処理したじゃがいもは、処理しないものが失った細胞壁の構造を保っていました。(宝酒造が引く Kawabe & Morita 1998、Takakura et al. 2000 による。原論文は確認していません。)アルコールと糖による効果なので、酒と砂糖でも再現できます。

3. 臭みを取る。 アルコールは低い温度で揮発し(エタノールの沸点は78.3°C)、魚や肉の揮発性の臭み成分を連れて飛びます。

4. うま味と奥行き。 みりんには、グルタミン酸やアスパラギン酸を中心とするアミノ酸、ペプチド、発酵で生まれた香りの成分が含まれます。これは発酵が必要なので、どの代用でも再現できません。


代わりに使うもの

近いものから順に並べます。

★★★ 酒+砂糖(標準の答え)

みりん大さじ1に対して、酒大さじ1と砂糖約4〜6g(上白糖なら小さじ1強〜2)。

キッコーマンの「みりん問答集」は、料理酒と砂糖のように、アルコールを含む調味料と甘いものを組み合わせ、甘さは好みで調整するよう勧めています。本みりんとまったく同じ調理効果は得られないとしつつも、代用としては成り立ちます。

宝酒造は逆向きの換算を出しています。同じ甘さにするには、重さでみりんが砂糖の約3倍必要です。これは成分のデータと合います。みりんの糖は約45%で、その大半がショ糖の約70%の甘さのブドウ糖なので、45%×70%でおよそ3分の1になります。

つまりみりん大さじ1(約18g)には約8gの糖が含まれますが、甘さは砂糖約6g分です。上白糖(小さじ1で約3g)なら小さじ2ほどで、日本のレシピでおなじみの量です。アメリカでよく使うグラニュー糖は小さじ1で約4gと重いので、同じ6gが小さじ1½ほどになります。アメリカの計量で「小さじ1〜1½」となるのはこのためで、計量スプーンの違い(日本の小さじは5mL、アメリカは約4.9mL)ではありません。軽めにするなら砂糖約4g(上白糖で小さじ1強)、みりんの甘さに合わせるなら約6g(上白糖で小さじ2)です。

管理栄養士が監修したトクバイニュースの比較では、本みりん、酒と砂糖約6g、酒とはちみつの3通りで照り焼きを作りました。「見た目に大きな違いはありません」とし、砂糖やはちみつでも「十分に美しい照りが生まれます」と書いています。砂糖の版は後味にやや甘みが残ったものの、「実際に食べ比べてみないとわからないほど」の差でした。

残るもの:アルコールの効果、甘さ、つやの大部分、煮崩れ防止。失うもの:甘さの性格の一部、アミノ酸、香り。

★★★ 料理酒+砂糖

比率は同じです。ただし料理酒は食塩が100gあたり約2.2gで、大さじ1で約0.33gの塩が加わります。その分、醤油を減らします。

★★ 酒+はちみつ

日本の代用一覧の一つでは、酒大さじ1にはちみつ小さじ½〜⅔。上のトクバイニュースの比較では、酒大さじ1にはちみつ約4gを使っています。

★ 水+砂糖(アルコールなし)

英語圏の Just One Cookbook が示す、水と砂糖を3:1で合わせる方法で、水大さじ1に砂糖小さじ1です。アルコールによる臭み取りと煮崩れ防止はまったくなくなります。アルコールを使えないときの手段で、同等ではありません。

✗ 米酢+砂糖

もとの料理にない酸を加え、その酸はアルコールのようには飛びません。日本のレシピで酸を使うなら、レシピにそう書いてあります。

念のため書くと、日本の代用一覧にも酢をごく少量入れるものはあります。ある一覧は「水大さじ1+砂糖小さじ1+酢小さじ¼」とし、酢は後味を「引き締める」ためのほんの隠し味です。約1.25mLにすぎません。英語圏でよく見る版は大さじ1を使うので、約12倍の量を、まったく別の役割で入れていることになります。


よくある質問

海外で売られている「aji-mirin」は本みりんですか。 日本の意味での本みりんではありません。アメリカのキッコーマン Aji-Mirin は、原材料の最初がブドウ糖シロップで、コーンシロップと食塩を含みます。アルコールは8%、ナトリウムは大さじ1あたり約90mgです。日本の区分でいえば、本みりんより塩を含む発酵調味料に近いものです。使えますが、塩分と加えられた糖を計算に入れてください。

みりんの代わりに砂糖だけでもよいですか。 甘さだけならかまいません。ただ、つやの一部(日本のメーカーは、ショ糖だけより複数の糖のほうが照りが出やすいとしています)、煮崩れ防止(アルコールが必要)、臭み取りは失われます。日本の料理の資料は、砂糖はつやが出る前に焦げやすいとも注意しています。

アルコールは加熱で飛びますか。 思われているほどには飛びません。USDA の残存率データによると、15分煮ても約40%のアルコールが残り、照り焼きのように短時間で仕上げる料理ではそれより短い加熱です。アルコールを完全に避けたいなら、水と砂糖の方法を使ってください。臭み取りの効果は、アルコールが揮発するときに生まれます。

みりん風調味料ではだめですか。 キッコーマンは、糖類に米や米こうじ、酸味料、調味料などを混ぜたもので、アルコールは1%未満と説明しています。甘さはつきますが、アルコールによる働きは期待できません。


この記事の調べ方

数値は、下に挙げた日本語の資料と公的な資料によっています。国税庁、農林水産省、文部科学省の食品成分データベース、日本のみりんメーカーの技術資料などです。アメリカの商品の内容は、2026年10月時点で小売店やメーカーが公開していた表示によります。配合は変わることがあるので、手元の瓶を確かめてください。日本語資料からの引用は原文のまま短くとどめ、英語の資料は当サイトで訳しました。代用の比率は当サイトが考えたものではなく、名前を挙げた資料によります。光沢度のデータのように、資料の根拠が限られる点はその旨を書いています。

参考資料

日本語の一次資料:

アメリカの商品表示:

その他:


この記事は、シリーズ英語の日本料理レシピは何を間違えているのかの一本です。あわせて照り焼きは「ソース」ではない、日本のカレーはインドのカレーではないもどうぞ。

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