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ケチャップで作る「カツソース」:英語のレシピと、JASが決めるソースの濃さ

英語圏の「katsu sauce」には、ケチャップにウスターソースと醤油を混ぜて作るレシピがあります。日本のとんかつソースはJASで粘度が決まった濃厚ソース。規格、原料、歴史から違いを確かめます。

千切りキャベツを添えた、きつね色のとんかつの切り身に、小さな白いピッチャーから濃い茶色のとんかつソースをかけているところ。

英語の「sauce」は、ほとんどどんなたれやソースにも使える言葉です。だから英語圏で「katsu sauce」のレシピを探すと、ケチャップにウスターソースと醤油を混ぜ、砂糖を少し足す、という作り方が出てきます。

日本の「ソース」は、もっと狭い言葉です。単に「ソース」と言えばウスターソースの仲間を指し、その仲間は日本農林規格(JAS)で、粘度という一つの数値によって三つに分けられています。とんかつソースは、そのうちいちばん濃い「濃厚ソース」です。英語のレシピが作っているのは、工業製品としての規格を持つソースの代用品ということになります。

要点

  • **英語圏の「katsu sauce」**は、とんかつソースを指す英語の略称です。ケチャップ、ウスターソース、醤油を混ぜるレシピがありますが、書き手自身が「コピー」「代用」と位置づけているものもあります。
  • JAS 0565 は、ウスターソース類を粘度で、ウスターソース(0.2 Pa·s 未満)、中濃ソース、濃厚ソース(2.0 Pa·s 以上)に分けています。「とんかつソース」は業界での濃厚ソースの呼び名で、規格には出てきません。
  • 規格の定義では、ウスターソース類は野菜や果実の搾汁、煮出汁、ピューレーなどに、糖類、食酢、食塩、香辛料を加えたものです。
  • 英国流のウスターシャーソースは、日本の分類でいえば薄い端にあたります。中濃と濃厚の帯は、英国流にはありません。

「ソース」がウスターソースを指すようになったわけ

日本大百科全書(ニッポニカ)によると、ウスターソースは明治時代(1868〜1912年)の後半に西洋料理とともに広まり、「ソース」がこのソースを指すようになりました。日本国語大辞典も、日本ではふつう単に「ソース」と呼ぶと書いています。

日本ソース工業会の専務理事、堤隆氏が農畜産業振興機構(ALIC)のサイトに寄せた2015年の記事も、同じことを述べています。日本に最初に入ってきたソースがウスターソースで、西洋料理の普及と国産化の努力によって「ソースといえばウスターソース類」という考えが広まった、というものです。

英語のレシピを日本語にするときも、逆に日本のレシピを英語にするときも、ここでずれが生じます。日本のレシピの「ソースをかける」は茶色い瓶のことですが、英語の「sauce」からはそれが伝わりません。

JAS:粘度で分かれる三つのソース

農林水産省の定める JAS のうち、この仲間の規格が JAS 0565「ウスターソース類」です。1974年に制定され、2025年に改正されました(ここで引くのは JAS 0565:2025)。

規格はまず仲間全体を定義します。野菜や果実の搾汁、煮出汁、ピューレー、またはこれらを濃縮したものに、糖類、食酢、食塩、香辛料を加えて作った茶色または茶黒色の液体調味料です。でん粉や調味料などを加えたものも認められています。

そのうえで、粘度(Pa·s)で三つに分けます。

種類JAS 0565 の粘度センチポアズに直すと
ウスターソース0.2 Pa·s 未満200 cP 未満
中濃ソース0.2 Pa·s 以上 2.0 Pa·s 未満200 cP 以上 2,000 cP 未満
濃厚ソース2.0 Pa·s 以上2,000 cP 以上

いちばん薄い種類の定義は、こうです。

「ウスターソース類のうち,粘度が0.2 Pa・s 未満のもの」 — JAS 0565:2025(農林水産省)

三つの名前は宣伝の言葉ではなく、それぞれが粘度の帯の名前です。

とんかつソースはどこに入るか

「とんかつソース」という言葉は JAS には出てきません。結びつけているのは業界です。堤氏の2015年の記事は、三つの種類をこう説明しています。

  • ウスターソース: 製造の途中で野菜や果実の繊維をこし取るため、粘度が低くさらっとした辛口のソース。
  • 中濃ソース: ウスターと濃厚の中間の濃さ。
  • 濃厚ソース: とんかつソースとも呼ばれる。果実を多く使うため、かつては「フルーツソース」と呼ばれていた。

ブルドックソースの有価証券報告書も、主な製品をウスター、中濃、とんかつソースの三つとしています。

記事は、のちに生まれた専用のソースとして、焼きそばソースとお好み焼きソースも挙げています。お好みソースは、ほかより酸味と塩味が控えめで、とろみが強いとしています。どちらも JAS には定義がありません。

等級

規格には特級と標準の二つの等級があり、無塩可溶性固形分や食塩の量、特級では野菜・果実の含有率の下限と、醸造酢だけを使うことが決められています。種類による違いがわかる数字を抜き出すと、次のとおりです。

ウスター中濃濃厚
食塩の上限(両等級)11%10%9%
野菜・果実の含有率の下限(特級)10%15%20%

濃いソースほど、特級に求められる野菜・果実が多く、許される食塩は少なくなります。濃厚ソースを果実の多いソースとする業界の説明と合っています。

原料

業界の記事は、代表的な原料を次のように挙げています。

  • 野菜: トマト、たまねぎ、にんじん、セロリ
  • 果実: りんご、プルーン、デーツ、みかん
  • 糖類: 上白糖、三温糖、中ざら糖など数種類
  • 食塩、食酢、香辛料

お好み焼きソースも同じ型です。広島市の「ひろしまブランド」のページに載ったオタフクの説明は、お好みソースを野菜、果実、香辛料を合わせたものとし、デーツを特徴的な原料に挙げています。

ソースが日本に来るまで

日本の事典類は、大筋では一致し、細部では違います。

年出来事出典
1887醤油醸造元のヤマサ醤油が、アメリカ市場向けに「ミカドソース」を作る。国内では「新味醤油」として売ったが売れず、製造をやめた。改訂新版 世界大百科事典、ニッポニカ
1894大阪で「三ツ矢ソース」発売。改訂新版 世界大百科事典
1896「イカリソース」発売。関西ウォーカー(2017年)
1902ブルドックの前身、三沢屋商店が食料品問屋として創業。ブルドックソース 有価証券報告書
1904日本国語大辞典が挙げるいちばん古い用例。村井弦斎『食道楽』冬の巻のレシピにある「ウシタソース」。日本国語大辞典
1905三沢屋がソースの製造・販売を始める。ブルドックソース 有価証券報告書
194711月7日、日本ソース工業会設立。業界の記事
1948神戸のオリバーソースが、世界初のとんかつソースを発売したとしている。文春オンライン(2017年)
1952オタフクのお好みソース発売。オタフク(広島市のページ)

注意が二つあります。日本の事典類はイギリスでのウスターソースの誕生を1850年ごろ、または19世紀半ばとしていますが、業界の記事は「といわれています」という形で19世紀初めとしています。また、2017年の関西ウォーカーの特集は、1896年発売のイカリを、現存する日本最古のソースブランドと書いています。これは同誌の説明で、当サイトでは確認できませんでした。事典には1894年の三ツ矢ソースなど、より早い国産ソースの記録がありますが、それらが現存するかはわかりませんでした。イカリは2005年、ブルドックの子会社が事業を引き継いでからブルドックグループに入っており、2024年3月期の有価証券報告書では連結子会社になっています。

とんかつソースの年は、会社自身の説明によります。

「…世界で最初のとんかつソースを1948年に売り出した…」 — オリバーソース社長 道満雅彦氏(文春オンライン、2017年)

これを裏づける、あるいは否定する独立した記録は見つけられなかったので、会社の説明として扱ってください。インタビューによると、このソースはまず神戸や明石でたこ焼きにかけるソースとして広まり、のちに大阪のお好み焼きに広がったそうです。

イギリスとのつながりを持つ洋食の定番としては、カレーもあります。日本のカレーはインドのカレーではないをどうぞ。

英国流のウスターシャーソースとの違い

キッコーマンの英語の用語集は、英国生まれのウスターシャーソースを「なめらかで液状」(英語の原文を訳したもの、以下同じ)と説明しています。日本の分類でいえば、薄い端です。日本の規格は、その先に中濃と濃厚という二つの帯を設けています。英国流のウスターシャーソースには、これにあたるものがありません。

配合も違います。同じ用語集は、日本のメーカーが「原料を違う比率で合わせて」独自のウスターソースを作ってきたとし、日本式のウスターソースを別の種類として挙げています。日本の規格は、野菜や果実の搾汁、煮出汁、ピューレーなどを出発点に、糖類(糖みつも可)、食酢、食塩、香辛料を加えるものとしています。アメリカで売られている Lea & Perrins のような英国流のブランドは、それぞれ独自の配合です。Lea & Perrins の原材料は公式の資料で確認できなかったので、気になる場合はラベルを見てください。

つまり、日本のレシピの「ウスターソース」なら英国流のウスターシャーソースで近づけられますが、同じ配合ではありません。「中濃ソース」や「とんかつソース」は JAS の中濃や濃厚の帯を前提にしていて、さらっとしたウスターシャーソースでは代わりになりません。

英語のレシピの「katsu sauce」

英語の「katsu sauce」のレシピには、ケチャップ、ウスターソース、醤油、ときに少しの砂糖で作る近道版があります。二つ例を挙げます(米国のカップ¼は60mL、大さじ・小さじは日本とほぼ同じです)。

レシピ(主な材料)ケチャップウスターソース醤油砂糖
DriveMeHungry「3-Ingredient Tonkatsu (Katsu) Sauce」60mL約37mL(大さじ2½)15mL(大さじ1)約7.5mL(大さじ½)、好みで
Chili Pepper Madness「Tonkatsu Sauce Recipe」(簡単版)60mL60mL15mL(大さじ1)5mL(小さじ1)、またははちみつかブラウンシュガー

DriveMeHungry は、好みでガーリックパウダーとオニオンパウダーも挙げています。

代用品としては筋が通っています。ケチャップがトマト、甘み、酸味、とろみを受けもち、濃厚ソースのピューレーの土台と濃さの代わりになります。ウスターソースは香辛料と酸味を、醤油は塩味を足します。

書き手の位置づけは分かれています。DriveMeHungry は自分のレシピを「ブルドックのとんかつソースのおいしいコピー」と呼んでいます。Chili Pepper Madness は、ケチャップ版を「自家製ブルドックソース」とし、たまねぎ、りんご、トマト、酒、醤油、ウスターソース、香辛料を煮て作る長いほうの版を「本格的(authentic)」と呼んでいます。

果実と野菜から作る長い版のほうが、日本の定義には近いでしょう。それでも、家庭で混ぜたものを「本格的」と呼ぶのは強い言い方です。日本のとんかつソースは、原料と粘度で定義された工業製品の区分だからです。DriveMeHungry のように、瓶の代用品と呼ぶのが妥当なところです。

(日本語がアメリカで瓶入りのたれの名前になった例は、照り焼きは「ソース」ではないでも取り上げています。)

海外で日本のソースの代わりを探すなら

レシピの表記指しているもの手元にない場合
ソースウスターソース類。濃さは言葉だけではわからない日本のウスターか中濃の瓶
ウスターソース薄い種類Lea & Perrins のような英国流のウスターシャーソースが手近な代わり。ただし配合は違う
中濃ソース中間の濃さ日本の薄いソースと濃いソースを混ぜるか、とんかつソースを使う
とんかつソース/濃厚ソース濃い種類日本の瓶か、ケチャップを使った代用品
お好みソースお好み焼き用。濃く、酸味と塩味が控えめ日本の瓶。いちばん近いのはとんかつソース

右の列は定義から当サイトが読み取ったもので、メーカーの勧めではありません。アメリカの計量カップと日本の200mLのカップの違いは、日本の「1カップ」はアメリカでは2割多いで書きました。

よくある質問

英語の「katsu sauce」は、とんかつソースのことですか。 たいていはそうです。レシピでは、とんかつにかける濃い茶色のソースを指す英語の略称として使われています。日本の規格ではこの種類を濃厚ソースと呼び、業界はとんかつソースとも呼ばれるとしています。ただ英語のレシピでは、ケチャップを使った代用品を指していることもあります。

中濃ソースと濃厚ソースは、何で分かれているのですか。 粘度です。JAS 0565 では、0.2 Pa·s 以上 2.0 Pa·s 未満が中濃ソース、2.0 Pa·s 以上が濃厚ソースです。濃いものほど、食塩の上限は低く(両等級共通)、特級の野菜・果実の含有率の下限は高くなります。

海外のウスターシャーソースは、とんかつソースの代わりになりますか。 それだけでは代わりになりません。ウスターシャーソースはさらっとした液体で、とんかつソースは濃厚な種類です。英語のレシピは、ケチャップや醤油と混ぜて近づけています。近いものにはなりますが、同じものではありません。

ブルドックソースは、とんかつソースのことですか。 ブルドックはブランドの名前で、種類の名前ではありません。有価証券報告書には、主な製品としてウスター、中濃、とんかつソースが並んでいます。英語のレシピの「Bulldog sauce」がどれを指すかは、レシピごとに確かめる必要があります。

この記事の調べ方

定義、粘度の区分、等級の基準は、農林水産省が公開している JAS 0565:2025 の本文によりました。三つの種類と原料の説明は、日本ソース工業会の堤隆氏の記事によります。年代は、日本の辞書・事典、ブルドックソースの有価証券報告書、広島市のサイトに載ったオタフクの説明、日本の報道のインタビューによりました。会社自身の主張である年は、その旨を書いています。英語の資料からの引用は当サイトで訳し、短くとどめています。この記事には当サイト独自の作り方はなく、紹介したソースやレシピを当サイトで作ったり味見したりはしていません。

参考資料

日本の規格と行政:

業界とメーカー:

辞書と報道:

英語のレシピ:


この記事は、シリーズ英語の日本料理レシピは何を間違えているのかの一本です。あわせて日本の醤油の種類、照り焼きは「ソース」ではないもどうぞ。

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