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天ぷらの衣は英語圏の「衣の常識」の逆:日本のメーカーが説く理由と天つゆ

英語圏の揚げ物の衣は、なめらかに混ぜて休ませるのが基本です。天ぷらはその逆をいきます。日本の製粉会社が示す理由と数字、素材別の油の温度、5:1:1の天つゆ、アメリカの油火災の注意を確かめます。

白い紙の上に盛ったえびと野菜の天ぷら。衣は薄く、花が散ったように軽い。天つゆの小鉢と大根おろしが添えてある。

英語圏で揚げ物の衣といえば、粉と液をなめらかになるまでよく混ぜ、しばらく休ませ、作り置きもできるもの、と教わることが多いものです。天ぷらの衣は、そのどれにも当てはまりません。なめらかにせず、休ませず、作り置きもしない。日本の大手製粉会社は、その理由をグルテンひとつで説明しています。

英語圏にも、要点をつかんでいる資料はあります。たとえばよく知られた日本料理サイト Just One Cookbook の天ぷらのページは、衣はよく冷やし、ダマが少し残るくらいでよいと書いています。この記事では、そうした決まりの裏にある日本の資料、つまり製粉会社や農林水産省が示す数字と、分量を変えやすい天つゆの比率を並べます。あわせて、アメリカの台所で揚げるときに日本と違う点、とくに油の火災への備えも確かめます。

要点

  • 冷水、薄力粉、混ぜすぎない、揚げる直前に作る。 いずれもグルテンを抑えるためだと、日清製粉グループと昭和産業は説明しています。
  • 油の温度は、野菜はやや低め、魚介はやや高めで短時間。 日清製粉グループと農林水産省の目安は同じ傾向です。
  • 天つゆは、大分市のサイトのレシピで、だし:醤油:みりん=5:1:1。
  • 日本の家庭用ガスコンロには、2008年10月から調理油過熱防止装置が義務づけられています。 アメリカのコンロに同じような義務があるかは確認できませんでした。

なぜ天ぷらの衣は違うのか:グルテン

この記事では日清の資料を2つ使います。日本有数の製粉会社である日清製粉グループの天ぷらの解説(以下「日清の解説」)と、レシピを公開している日清製粉ウェルナの基本の天ぷら(以下「日清のレシピ」)です。日清の解説は、問題をこう書いています。

小麦粉(薄力粉)に水を混ぜて時間が経つと、グルテン(粘り)が発生します。 — 日清製粉グループ

グルテンができすぎるとカラッと揚がらず、見た目も食感も落ちる、と日清の解説は続けます。昭和産業は、混ぜすぎた衣の仕上がりを「ぼってり」と表現しています。

2019年の『日本調理科学会誌』の論文も、天ぷらづくりの要点はグルテンの形成を抑えることだとしています。そのため著者らは、衣の中で小麦のようにはグルテンを作らない大麦粉、そば粉、はと麦粉を試しました。(ただしアメリカのFDAの表示ルールでは、大麦はグルテンを含む穀物に数えられるので、グルテンフリーの食事には使えません。)

4つの決まりと、その理由

決まり日本の資料の説明理由
冷水昭和産業:グルテンを出さないために冷水を使う。日清の解説は氷を入れることも勧める日清の解説によると、ぬるい水ではグルテンができやすく、25〜30°Cがいちばんできやすい温度帯と「いわれる」
薄力粉日清のレシピは薄力粉を指定。昭和産業は、グルテンが多いほど衣に粘りが出ると説明たんぱく質が少ないほどグルテンも少ない
混ぜすぎない日清の解説:箸か泡立て器で軽く混ぜる。混ぜすぎないのが「鉄則」で、小さなダマは残ってよい混ぜるほどグルテンができる
最後に作る日清も昭和産業も、衣は揚げる直前に作るとしている昭和産業は、置いた衣はカラッと揚がらないとし、日清の解説は、時間がたつとグルテンができ続けるからと説明

ほかに2つの下準備もあります。粉はふるう。日清の解説は大きなダマを防ぐため、昭和産業は空気を含ませて軽い衣にするためとしています。日清のレシピは2〜3回ふるうよう勧めています。水気の多い素材には打ち粉をします。日清の解説はれんこんなど水分の多い野菜、きのこ、魚介に勧め、うまみを閉じ込めるためとしています。日清のレシピは、衣が均一につくよう魚介に打ち粉をしています。えびについては、ふくのは表面の水気だけにするよう日清の解説は注意しています。ふきすぎると水と一緒にうまみも失われるからです。

アメリカで薄力粉を探すなら

日本の製粉会社が天ぷらに指定するのは薄力粉です。アメリカの小麦粉の銘柄ごとのたんぱく質量は比べていないので、ぴったりの代わりは挙げられません。日本の資料の原則どおり、たんぱく質の少ない粉ほどグルテンも少ないので、表示のたんぱく質量を見て、いちばん低いものを選ぶのが目安です。

天ぷら粉

昭和産業によると、天ぷら粉はでんぷんなどを配合してたんぱく質を下げ、グルテンができにくくしたものです。卵粉が入っているので水だけで作れ、衣がカラッとした状態が長持ちします。日清の解説は、天ぷら粉にはベーキングパウダーが入っているので、小麦粉だけの衣より油の中で早く浮くとしています。


油の温度:野菜は低め、魚介は高め

日清の解説と農林水産省は同じ傾向を示しています。野菜はやや低め、魚介はやや高めで手早く。 一方、単独のレシピでは、日清製粉ウェルナのようにすべて170〜180°Cとすることもよくあります。

出典野菜魚介・肉
日清製粉グループ(解説)160〜170°C170〜180°C、短時間
農林水産省約170°C肉・魚 約175〜180°C
日清製粉ウェルナ(レシピ)どの具材も170〜180°C
大分市のかき揚げのレシピえび入りのかき揚げ 180°C

日清の解説によると、野菜は焦げやすいので少し低い温度で色と風味を守り、魚介は高めの温度で短時間で揚げます。かき揚げは、衣が薄いときは約160°C、魚介が入るときは約170°Cが目安です。

農林水産省も、消費者向けの相談窓口で同じことを書いています。

揚げ油は野菜が170℃くらい、肉や魚は175~180℃くらいが基本になります。 — 農林水産省

揚げる順番を示した資料はありませんでした。当サイトの考えですが、野菜の温度帯のほうが低いので、野菜を先に揚げれば温度は上げるだけで済みます。

温度計がないとき

日清の解説は、衣を少し落として温度を見る方法を3段階で示しています。

衣の様子温度
底まで沈んで、ゆっくり浮く低温:150〜160°C
途中まで沈んで、浮き上がる中温:170〜180°C
すぐに浮く高温:180〜190°C

ただし、正確な数字がわかるのは揚げ物用の温度計です。天ぷら粉の衣はベーキングパウダーのせいで早く浮くので、見え方が変わります。一度に入れるのは、油の表面の半分ほどまで、と日清の解説はしています。


基本の衣

日清製粉ウェルナのレシピ「天ぷら(薄力小麦粉使用)」をもとにしています。4人分。

衣

  • 薄力粉 100g
  • 卵 1個(約50g)
  • 水 150mL

揚げるもの

  • えび、さつまいもなど好みの具材
  • 薄力粉(魚介の打ち粉用) 少々
  • 揚げ油

作り方

  1. 薄力粉を2〜3回ふるいます。
  2. 魚介は水気を軽くふき、衣が均一につくよう薄力粉をまぶします。
  3. 揚げ油を170〜180°Cに熱します。
  4. 衣は揚げる直前に作ります。ボウルで卵と水を混ぜ、薄力粉を加えて太めの箸で軽く混ぜ、粉が少し残るところでやめます。
  5. 具材に衣をつけ、熱した油で揚げます。

日清のレシピには揚げ時間の記載はありません。

日清製粉グループの解説から(上のレシピとは別のページです)

  • 冷水を使う。氷を入れてもよい。
  • れんこんなど水分の多い野菜やきのこにも打ち粉をする。いもなどでんぷんの多い野菜は、必ずしも必要ない。
  • えびは表面の水気だけをふく。
  • 温度を分けるなら、野菜は160〜170°C、魚介は170〜180°C。
  • 一度に入れるのは油の表面の半分ほどまで。

ほかの衣との比較

日清の衣は、重さで粉の約2倍の液体(卵と水)を使います。ヤマサの大量の衣も近く、水1Lに粉500gと卵黄1個です。卵を使わないレシピもあります。大分市のサイトに載っている楊志館高校調理科のかき揚げは、具材に粉36gをまぶし、衣は粉50gと水150mLで、卵は入れません。


天つゆ

天つゆはだしが大部分なので、照り焼きのたれよりずっと薄いものです。当サイトが照り焼きで引いた日本のレシピのたれは、醤油とみりん(ときに酒)で、だしは入りません(照り焼きは「ソース」ではない)。

分量がはっきりわかる日本のレシピは2つありました。

出典だし醤油みりん比率
大分市のサイト(楊志館高校調理科のレシピ)一番だし 200mL薄口醤油 40mL40mL5:1:1
ヤマサ醤油、4人分。固める前の液利尻昆布と削り節のだし 300mL濃口 25mL+薄口 25mL本みりん 50mL(煮切る)6:1:1

ヤマサのレシピは変わり種で、天つゆを煮立てて冷やし、ゲル化剤で固めてから衣をつけて揚げます。液の比率は6:1:1ですが、固めるための液なので、つけつゆのレシピというより参考の数字として見てください。

どちらのレシピも、少なくとも一部に薄口醤油を使っています。薄口は色が淡くても、塩分は濃口より約10%高めです(日本の醤油の種類)。濃口だけで作ると、色が濃く、塩味はやや弱くなります。

天つゆの作り方

大分市のレシピ(5:1:1)によっています。

  • 一番だし 200mL
  • 薄口醤油 40mL
  • みりん 40mL
  1. 小鍋にみりんを入れて火にかけ、煮立ててアルコールをとばします。
  2. だしと醤油を加え、ひと煮立ちさせて火を止めます。

天ぷらに添えて、つけて食べます。

だしは同じ大分市のレシピで: 昆布20gをかたく絞ったふきんでふき、切り込みを数か所入れます。鍋に水1Lと昆布を入れて火にかけ、昆布が浮いてきたら取り出します。かつお節30gを入れ、沸騰したら火を止め、かつお節が沈み始めたらこします。天つゆに必要な量より多くできます。だしについてはだしは「フィッシュストック」ではないもどうぞ。

ヤマサのレシピでは、それぞれ水気を絞った大根おろしを小さく盛り、おろししょうがをのせて添えています(4人分で8gと4g)。

塩、抹茶塩

天つゆでなく塩で食べることもあります。埼玉県のサイトに載っている茶葉の天ぷらのレシピ(発行した部署の記載はありません)は、こう書いています。

好みで、塩や抹茶塩をつけていただく。 — 埼玉県のサイトに掲載のレシピ

抹茶塩の配合は書かれておらず、メーカーの資料でも見つからなかったので、ここでは示しません。


油の安全:日本のコンロとアメリカの指針

日本:自動で火が消える

製品評価技術基盤機構(NITE)によると、2008年10月から、家庭用ガスコンロには調理油過熱防止装置が法律で義務づけられています。油が300°Cに達する前に火を消す装置で、1口の卓上コンロと業務用は対象外です。

日本で2008年以降のガスコンロを使っていれば、最後の歯止めとして自動消火があるわけです。作動するのは300°C近くで、揚げ物の温度よりずっと上です。アメリカのコンロに同じような義務があるかは確認できませんでした。アメリカで揚げるなら、鍋に留める温度計で温度を保つのが確実です。コンロの違いは日本のレシピをアメリカの台所で作るでも扱っています。

アメリカ:USDAとNFPAの注意

**USDA食品安全検査局(FSIS)**は、揚げ油は204°Cを超えることがあると注意しています。油の火災については、英語の原文を訳すと次のとおりはっきり書いています。

「油の火災が起きたら、決して水で消そうとしてはいけない」

USDAは、台所用の消火器か、金属のふたで揚げ鍋を覆うのがいちばんの消し方だとし、火災が起きたらすぐ911に通報するよう勧めています。

**全米防火協会(NFPA)**は、調理による火災が住宅火災と住宅でのけがの原因の第1位だとしています。同協会の調理の安全の手引き(©2016、ペン・ヤン村が転載したもの)は、揚げ物の最中は台所を離れないよう求め、鍋の小さな油火災には、ふたを滑らせるようにかぶせて火を止め、完全に冷めるまでふたをしたままにするよう勧めています。

油の再利用: USDAは、使った油はチーズクロス(目の細かい綿布)かざるでこし、光を通さない密閉容器で最長3か月保存するとしています。濁ったり、泡立ったり、においや味がおかしくなったら捨てます。

USDAの数字には注意も必要です。その「おおよその加熱時間」の表では、えびは160°Cで4〜6分、魚の切り身は160°Cで3〜5分です。これは揚げ物一般の目安で、天ぷらの方法ではありません。日清の解説では、衣をつけた魚介はもっと高い170〜180°Cで、短時間で揚げます。


よくある質問

英語のレシピでも、天ぷらの衣に氷水を使うのですか。 Just One Cookbook のように、よく冷やしてダマを残すよう書いている英語の資料もあります。日本の製粉会社によれば、冷水を使うのはグルテンを抑えるためです。日清の解説はグルテンが25〜30°Cでいちばんできやすいといわれるとしています。

アメリカの揚げ物の目安と、日本の天ぷらの温度は違いますか。 違います。USDAの表はえびを160°Cで4〜6分としていますが、これは揚げ物一般の目安です。日清の解説は衣をつけた魚介を170〜180°Cで短時間、農林水産省は肉・魚を175〜180°Cくらいとしています。

グルテンフリーの天ぷらは作れますか。 日本では米粉の研究があります。2019年の大学紀要の小さな研究では、米粉の衣の吸油率は小麦粉より低く(約20〜23%に対して25.5%)、38人の官能評価ではサクサク感に有意差はありませんでした。同じ論文は、米粉はグルテンがないぶんまとまりにくいとしています。グルテンを避けるなら、天つゆの醤油も確かめてください(たまりはグルテンフリーか)。

天つゆの比率はどれくらいですか。 大分市のサイトのつけつゆは、だし:醤油:みりん=5:1:1で、だし200mLに醤油とみりん各40mLです。ヤマサの固める天つゆの液は6:1:1になります。


この記事の調べ方

日本語の一次資料によっています。製粉会社の日清製粉グループ、日清製粉ウェルナ、昭和産業の解説とレシピ、ヤマサ醤油のレシピ、農林水産省、大分市のサイトのレシピ、埼玉県のサイトのレシピ、日本の論文2本、NITEの注意喚起です。アメリカの指針はUSDA FSIS、FDA、NFPAによっています。日本語資料からの引用は原文のまま短くとどめ、英語資料からの引用は当サイトで訳しました。衣は日清製粉ウェルナのレシピをもとにし、日清製粉グループの解説のコツは別に挙げています。天つゆは大分市のレシピの分量と手順どおりです。どちらも当サイトでは試作していません。アメリカのコンロの過熱防止の義務は確認できませんでした。

参考資料

日本のメーカー:

日本の公的機関:

日本の論文:

アメリカの指針(英語):

英語圏の例:

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