翻訳で消えたもの

アメリカで「たまり=グルテンフリー」は本当か:小麦入りのたまりもある

英語圏では、グルテンを避けるなら醤油をたまりに替えればよいと言われます。けれどもJAS規格はたまりに少量の麦を認め、アメリカでも小麦入りのたまりが売られています。規格、FDAの表示ルール、ラベルの読み方を確かめます。

木の調理台の上に、黒くつやのあるたまり醤油を入れた小さな白い皿と、散らばった乾燥大豆。

英語圏では、グルテンを避けたい人に「醤油をたまりに替えればいい」と勧める記事がよくあります。米国の料理専門局 Food Network の2023年のガイドは「小麦を含まないので、たまりはグルテンフリー」と言い切っています(英語の原文を訳したもの)。

日本の資料を見ると、話はそれほど単純ではありません。たまりは大豆が中心の醤油ですが、JAS規格は少量の麦を加えることを認めています。日本の食文化研究者は、小麦を使うたまりの蔵も使わない蔵もあると報告しています。アメリカでも、キッコーマンは小麦入りのたまりとグルテンフリーのたまりの両方を売っています。

つまり、たまりはグルテンフリーであることが多いものの、名前だけではわかりません。わかるのはラベルです。

要点

  • 日本の定義では、たまりに小麦が入ってもよい。 JAS規格は、たまりを大豆、または大豆に少量の麦を加えたものを原料とする醤油と定めています。
  • 実際にも両方ある。 キッコーマンの機関誌『FOOD CULTURE』で、日本の研究者が、たまりは大豆が主で小麦は「わずか」と書き、小麦を使う蔵と使わない蔵の両方を紹介しています。
  • アメリカの売り場にも両方ある。 キッコーマンUSAの Tamari Soy Sauce は原材料に小麦があり、Gluten-Free Tamari にはありません。San-J は、自社のたまりは小麦不使用で、グルテンフリーの認証を受けているとしています。
  • 見るべきは「gluten-free」の表示。 アメリカではこの表示にFDAの法的な定義があります。「tamari」という言葉にはありません。

日本の規格が書いていること

醤油には日本農林規格 JAS 1703(2021年改正)があり、醤油を5つの種類に分けています(5種類については日本の醤油は一つではないで書きました)。たまりの定義は次のとおりです。

「しょうゆのうち,大豆若しくは大豆に少量の麦を加えたもの又はこれに米等の穀類を加えたものをしょうゆこうじの原料とするもの」 — JAS 1703:2021、たまりしょうゆの定義(3.11)

規格の原材料には小麦、大麦、裸麦(小麦,大麦及び裸麦)が挙がっています。いずれもFDAの定義ではグルテンを含む穀物なので、グルテンを避ける人にとって、どの麦かは関係ありません。

定義は「少量」の麦を認めていますが、量は決めていません。また、麦を必ず入れるとも書いていません。大豆だけのたまりも、小麦を少し使ったたまりも、どちらも定義に合います。

同じ規格のほかの種類と並べると、位置がよくわかります。

種類こうじの原料(JAS 1703)
こいくち大豆にほぼ等量の麦(米などの穀類を加えてもよい)
たまり大豆、または大豆に少量の麦(米などの穀類を加えてもよい)
しろ麦に少量の大豆(小麦グルテンを加えてもよい)

たまりは、日本の醤油のなかで小麦が少ない側にあります。ただ「少ない」は「ない」と同じではありません。

もうひとつ、JASは日本の規格です。アメリカで売られる瓶は、JASではなくアメリカのルールで表示されます。アメリカのルールが定めているのは「gluten-free」の意味で、これは後で見ます。

日本の作り手の側から

しょうゆ情報センターは、たまりを次のように説明しています。

「たまりしょうゆは、主に中部地方で造られる色の濃いしょうゆです。」 — しょうゆ情報センター

いちばん詳しい記述は、学習院女子大学准教授(執筆当時)の宇都宮由佳さんが『FOOD CULTURE』No.28に書いたものです。伊勢湾・三河湾をとりまく愛知、岐阜、三重をたまりの産地とし、たまりは日本の醤油生産量の約2%だとしています。原料についてはこうまとめています。

「主原料は大豆で、小麦はわずか。」 — 宇都宮由佳『FOOD CULTURE』No.28

宇都宮さんは、たまりが豆味噌づくりから生まれ、味噌玉麹を塩水で仕込み、汲みかけをしながら約1年発酵・熟成させると説明しています。東京農業大学の舘博さんは同誌No.29で、室町時代に味噌の溜りから生まれたという説を紹介しています。(豆味噌については日本の味噌の種類をどうぞ。)

この記事にとって大事なのは、宇都宮さんの地域ごとの報告が両方向を示していることです。岐阜については、執筆時点の今のたまりは大豆に加えて小麦も使うと書いています。三重については、現地で聞いた話として、小麦を使わないたまりがグルテンフリーとしてアメリカなど海外で求められていると伝えています。

「小麦を使用しないたまりしょうゆは、グルテンフリーとして海外(アメリカ等)で注目され需要が高く、最近は国内でも要望が出てきているという。」 — 宇都宮由佳『FOOD CULTURE』No.28(三重県について)

岐阜の醸造元も同じ流れを語っています。楽天の店舗ページで、たまり「長良」の製造者として名前が出ている山川醸造は、原材料を大豆、食塩、アルコールとしています。同じページの英語の説明では、たまりは本来大豆だけで造るもので、少量の小麦を加えるのが一般的になったこと、同社もかつて小麦を使っていたことが書かれています。ページにはグルテンフリーという説明もありますが、日本の通販ページなので、これは作り手自身の言葉で、アメリカの表示ルールにもとづく表示ではありません。

同じブランドに、2種類のたまり

アメリカの売り場でいちばんわかりやすい例はキッコーマンUSAです。醤油の品ぞろえに、小麦入りの Tamari Soy Sauce と、2つのグルテンフリーのたまり(通常品と減塩50%品)があります。通常の塩分の2品の商品ページを並べます。

Tamari Soy SauceGluten-Free Tamari Soy Sauce(Non-GMO)
原材料水、大豆、食塩、小麦、アルコール、ぶどう糖水、大豆、食塩、砂糖
アレルゲン表示「Contains: Soy, Wheat.」商品ページには記載なし(原材料に大豆あり)
グルテンフリー表示なし「Certified Gluten-Free」
ナトリウム(大さじ1、15mLあたり)1,070mg980mg

キッコーマンは1つ目を「コクのある、伝統的な日本のたまり」とし、「味に深みとうま味、奥行きを加えるために、ほんの少し小麦を使っている」と説明しています。2つ目は「小麦を使わずに醸造」としています(いずれも英語の原文を訳したもの)。どちらも「たまり」ですが、グルテンフリーと表示されているのは2つ目だけです。キッコーマンはこれとは別に Gluten-Free Soy Sauce も売っています。

San-J は、1804年に佐藤家がサンジルシとして醤油と味噌の製造を始めたことに由来するブランドで、大豆だけの側に立ち、バージニア州で醸造しています。「Our Tamari」のページには、「当社のたまりは大豆100%で、小麦は使っていません」とあります(英語の原文を訳したもの)。

San-J は、自社のたまりが「Gluten-Free Certification Organization の認証を受けたグルテンフリー」だとしています。また、一般的な醤油は「小麦を約40〜60%含む」とも書いていますが、この数字は同社のもので、ページに出典はありません。

日本の資料は、大豆だけのたまりも、大豆に少し小麦を加えたたまりも書いています。瓶の「tamari」は醤油の種類を示す言葉で、小麦が入っていないことの保証ではありません。

アメリカの「gluten-free」表示の意味

「gluten-free」の表示のルールは、FDAが連邦規則 21 CFR 101.91 で定めています。要点は次のとおりです。

  • グルテンを含む穀物は、小麦、ライ麦、大麦と、それらを掛け合わせたライ小麦などです。
  • グルテンフリーと表示する食品は、グルテンを含む穀物を原材料にしてはならず、それらから作った原材料も、グルテンを取り除く加工をしていなければ使えません。避けられずに混じるグルテンは 20ppm未満(食品1kgあたりグルテン20mg)でなければなりません。

小麦を原材料にしたたまりは、測る前に最初の条件で外れます。キッコーマンの小麦入りのたまりにグルテンフリーの表示がないのは、そのためです。

発酵食品についての2020年のルール

醤油は発酵食品で、発酵は検査を難しくします。FDAは2020年の発酵・加水分解食品についての最終規則で、こうした食品のグルテンを正確に検出し量を測れる、科学的に妥当な方法は知られていないとしました。よく使われるグルテン検査のサンドイッチELISA法は、結合部位(エピトープ)が少なくとも2つ必要なため、こうした食品には有効でないとしています。

そこで、科学的に妥当な検査がない場合、つまり2020年時点でFDAがこれらの食品についてそうだとした場合には、グルテンフリーと表示する発酵・加水分解食品のメーカーに、次のことを示す記録を残すよう求めています。

  1. 発酵や加水分解の前に、グルテンフリーの要件を満たしていたこと
  2. グルテンが混じるおそれについて、工程を評価したこと
  3. 混じるおそれがある場合は、防ぐ手立てをとったこと

記録は、食品が州をまたいで流通し始めてから少なくとも2年間保管し、検査の際にFDAから求められたら提出します。規則は2020年10月13日に施行され、遵守の期限は2021年8月13日でした。

要するに、アメリカのルールでは、発酵させても小麦入りの醤油はグルテンフリーにはなりません。

「たまりに小麦は入っていない」はどこから来たか

根拠のない話ではありません。日本の資料はたまりを大豆中心の醤油として書いていますし、小麦を使わないたまりが実際にグルテンフリーとして海外で売られています。問題は、例外のない決まりのように言い切ることです。

冒頭の Food Network の記事は、たまりを「大豆と米から作る」もので、「こうじ(発酵させた米)」を使うとも書いています(英語の原文を訳したもの)。日本の資料では、たまりのこうじは大豆で作るので、これは合いません。JASは米などの穀類を加えることを認めていますが、米が土台ではありません。一方で、同じ記事は「小麦を加えるメーカーもあるので、ラベルを確かめて」とも書いています。

食品宅配の Daily Harvest の記事は、たまりは「大豆だけで作られる」「大豆だけで穀物を含まない」とし、「グルテンを避けたいなら、答えははっきりしている。いつでもたまりを」と続けます。そのうえで「『gluten free』と明記された瓶」を選ぶよう勧めています(いずれも英語の原文を訳したもの)。

2つの記事の最後の助言、つまりラベルを確かめることは正しいものです。行きすぎているのは一般論のほうです。日本の規格、日本の研究者、そして少なくとも1つのアメリカの大手の商品が、それと食い違っています。

アメリカでグルテンを避けながらたまりを買うには

この記事は表示についてのもので、医療についてのものではありません。医学的な理由でグルテンを避けている人は、医師や管理栄養士、あるいは各国のセリアック病の団体の指示に従ってください。上の資料から言えるのは次のことです。

  • 包装の「gluten-free」表示を探す。 アメリカでは、この表示は上のFDAの定義を満たす必要があり、発酵食品については記録保管のルールもかかわります。
  • 表の表示だけでなく、原材料と「Contains」の行を読む。 キッコーマンの小麦入りのたまりには「Contains: Soy, Wheat.」とあります。
  • 「tamari」という言葉だけで判断しない。 キッコーマンは小麦入りと小麦なしの両方のたまりを売っています。
  • 日本語のラベルなら、原材料名の「小麦」を見ます。小麦を使わない山川醸造のたまりは、大豆、食塩、アルコールとなっています。
  • 買い足すたびに確かめる。 配合や表示は変わることがあり、1つのブランドが複数のたまりを売っていることもあります。

たまりは塩分が少ないのか

そうとは限りません。日本食品標準成分表では、食塩相当量は100gあたり、たまりが13.0g、こいくちが14.5gです。ただ、これは国の標準値で、どの瓶にも当てはまるわけではありません。キッコーマンUSAの Tamari は大さじ1(15mL)あたりナトリウム1,070mgで、通常の Soy Sauce の960mgより多くなっています。塩分は栄養成分表示で確かめるのが確実です。

よくある質問

アメリカでは、たまり醤油はどう受け止められていますか。 英語圏では、グルテンを避ける人向けの醤油の代わりとして紹介されることが多く、「小麦を含まないからグルテンフリー」と言い切る記事もあります。日本の研究者も、三重で聞いた話として、小麦を使わないたまりがグルテンフリーとしてアメリカなど海外で需要が高いと伝えています。

たまり醤油に小麦は入っていますか。 入っているものも、いないものもあります。キッコーマンUSAの Tamari Soy Sauce は原材料に小麦があり、「Contains: Soy, Wheat.」と書かれています。同社の Gluten-Free Tamari は水、大豆、食塩、砂糖です。San-J は大豆100%で小麦不使用としています。

発酵させれば醤油のグルテンはなくなるのですか。 アメリカのルールでは、表示の答えは変わりません。FDAの2020年の規則では、発酵食品のグルテンを正確に測れる科学的に妥当な検査は知られていないとして、グルテンフリーと表示するには、発酵前に要件を満たしていたことを記録で示す必要があります。小麦を使って醸造した醤油は、この要件を満たしません。

たまり以外にグルテンフリーの醤油はありますか。 あります。たとえばキッコーマンUSAは、グルテンフリーのたまりとは別に Gluten-Free Soy Sauce を売っています。たまりと同じく、商品名ではなくグルテンフリーの表示で判断します。

この記事の調べ方

日本側は日本語の資料によっています。醤油のJAS規格(JAS 1703:2021)、しょうゆ情報センター、『FOOD CULTURE』の宇都宮由佳さんと舘博さんの記事、岐阜の醸造元の商品ページ、日本食品標準成分表です。アメリカ側は、FDAの規則本文(21 CFR 101.91)、官報 Federal Register に載った2020年の最終規則、キッコーマンUSAとSan-Jの公式の商品ページで、2026年10月に確認しました。表示や配合は変わるので、お手元の瓶で確かめてください。英語の資料からの引用は短く訳しています。当サイトはこれらの商品を味見も検査も分析もしておらず、この記事は医療上の助言ではありません。

参考資料

日本の資料:

アメリカの規則:

アメリカの商品ページ:

英語圏の例:


醤油と味噌についてはこちらも:日本の醤油は一つではない、日本の味噌の種類、英語の日本料理レシピは何を間違えているのか。

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