安全と表示

「新鮮だから生で食べられる」は誤り:海外から見た日本の生食ルール

英語圏では「日本は新鮮なら何でも生で出す国」と見られがちです。実際は食品ごとに冷凍、加熱、禁止とルールがまったく違います。魚、牛、馬、レバー、豚、かき、ふぐ、鶏の決まりと、アメリカの公的機関の考え方を並べます。

素朴な木のカウンターに、刺身、薄切りの馬刺し、氷にのせた生がきの小皿がきれいに並んでいる。

アメリカの多くの店のメニューにない生ものが、日本にはあります。馬刺し、牛刺し、鶏刺し、ふぐです。生がきは両国で食べられますが、日本の分け方は違います。英語圏からは、日本は生ものをそれだけ信頼している国、あるいは「新鮮でさえあれば生で食べてよい国」に見えることがあります。

日本の決まりは、そうは書いていません。「生食法」のような一本の法律はなく、食品ごとに別々のルールがあり、その仕組みも冷凍の条件から全面禁止までまったく違います。ここではそれを所管と年とともに並べ、アメリカの公的機関の考え方と比べます。

ルールを並べると

食品主な危険日本のルール出典・年
魚(アニサキス)寄生虫事業者への助言:−20℃で24時間以上の冷凍、または70℃以上、60℃なら1分の加熱厚生労働省 アニサキスのページ
ヒラメ(クドア)寄生虫−15〜−20℃で4時間以上の保存、または中心部75℃で5分以上の加熱で失活厚生労働省 通知、2011年
馬肉(サルコシスティス・フェアリー)寄生虫中心温度−20℃で48時間以上の冷凍など厚生労働省 通知、1998年(衛生基準)と2011年(冷凍)
生食用牛肉(内臓を除く)細菌法的基準:肉塊の表面から深さ1cm以上を60℃で2分以上加熱、検査と注意表示食品衛生法の規格基準、2011年10月1日施行
牛レバー肝臓内部の細菌生食用の販売・提供を禁止食品衛生法、2012年7月1日
豚肉(内臓を含む)E型肝炎ウイルス、寄生虫、細菌生食用の販売・提供を禁止食品衛生法、2015年6月12日
生がき細菌細菌の成分規格、採取海域の表示食品衛生法の規格基準(国)、食品表示法
ふぐ自然毒都道府県が試験でふぐ処理者を認定厚生労働省 認定基準、2019年
鶏肉カンピロバクター生食の国の基準なし。厚生労働省は加熱を求める厚生労働省 Q&A

魚とヒラメ:冷凍は「助言」で、法律ではない

刺身で厚生労働省が挙げる寄生虫はアニサキスです。同省は事業者に、−20℃で24時間以上の冷凍か、加熱を勧めています。冷凍庫の温度か魚の中心温度かは書かれていません。生食用の魚に冷凍を義務づける日本の法律は、私たちには見つけられませんでした。アメリカのFDA(食品医薬品局)は生食用の魚に冷凍の目安を示しており、その比較は「スシグレード」とは何かにまとめました。

京都府が掲載している厚生労働省の2025年の集計では、全国の食中毒は1,172件、うちアニサキスが280件、患者283人です。詳しくは日本の刺身は安全か、川魚については淡水魚の生食をご覧ください。

ヒラメには別の寄生虫、クドア・セプテンプンクタータがあり、厚生労働省は2011年6月17日の通知で扱っています。−15〜−20℃で4時間以上の保存、または中心部75℃で5分以上の加熱で、胞子が失活したとしています。

馬肉:中心温度での冷凍

同じ2011年の通知は、馬の筋肉に寄生するサルコシスティス・フェアリーも扱っています。馬刺しで問題になる寄生虫で、肉の中心温度で測る冷凍条件が示されています。

中心温度時間
−20℃48時間以上
−30℃36時間以上
−40℃18時間以上
−30℃(急速冷凍機)18時間以上
液体窒素への浸漬1時間以上

これは寄生虫を失活させると確認された条件で、都道府県に指導の目安として伝えられたものです。生食用牛肉のような法的な規格基準ではありません。

熊本県は、この寄生虫が人には定着しないと説明しています。

ウマでは筋肉に寄生し、人には寄生しません。 — 熊本県

熊本県によると、ヒラメのクドアも馬肉のサルコシスティスも、症状は食後数時間(4〜8時間)の一過性の嘔吐や下痢で、一般に重くはありません。広島県は、馬刺しと馬レバーには1998年の国の通知「生食用食肉の衛生基準」が引き続き適用されるとしています。この1998年の文書そのものは読んでいないため、中身には触れません。

生食用牛肉:認められているが、加熱工程がある

ユッケ、牛刺し、牛のたたきなどは、2011年10月1日施行の規格基準の対象です。千葉市と大阪府によると、対象は内臓を除く生食用の牛肉で、次のことが求められます。

  • 腸内細菌科菌群(大腸菌を含む細菌の仲間)が陰性であること
  • 肉塊の表面から深さ1cm以上の部分を、60℃で2分以上加熱すること
  • 腸管出血性大腸菌のリスクについて知識のある者が加工すること
  • 容器包装、または飲食店のメニューや店頭に、生肉の喫食は一般に食中毒のリスクがあり、子ども、高齢者など抵抗力の弱い人は控えるべき旨を表示すること

基準を満たさない牛肉は、生食用として販売・提供できません。これは生食用に売る・出す事業者のための決まりで、家庭の調理を定めたものではありません。ステーキの表面をさっと焼くことは、肉塊を深さ1cmまで60℃で2分加熱するという規定の工程とは別物です。牛肉そのものについてはA5和牛と神戸ビーフの本当の意味で書きました。

牛レバーと豚肉:生食は禁止

牛レバーの生食用の販売・提供は、2012年7月1日から禁止されています。広島県は、O157などの腸管出血性大腸菌が、鮮度や衛生管理に関係なくレバーの内部にいることがあると説明しています。

牛レバーを安全に生食するための方法は、今のところありません。 — 広島県

飲食店向けに、広島県は中心部を63℃で30分、または75℃で1分といった十分な加熱を求めています。

豚肉が続きました。2015年6月12日から、豚肉はレバーなどの内臓を含め、生食用に販売・提供できません。宮城県は理由として、豚やイノシシ、シカの生肉には重症化することもあるE型肝炎ウイルスの感染リスクがあること、人への寄生虫感染が世界で報告されていること、サルモネラやカンピロバクターのリスクがあることを挙げています。

生がき:違いは鮮度ではなく海域

店頭のかきは「生食用」と「加熱調理用」に分かれています。広島県は、この違いは鮮度ではないと説明しています。

どちらの生かきも鮮度は同じですが、採取された海域が違います。 — 広島県

生食用のかきは、食品表示法で採取海域の表示が必要です。兵庫県がまとめた食品衛生法の国の規格基準では、細菌数が1gあたり50,000以下、大腸菌(最確数)が100gあたり230以下、むき身では腸炎ビブリオが1gあたり100以下です。採取海域の水にも大腸菌群の基準があり、保存は10℃以下、冷凍なら−15℃以下です。

広島県には独自の仕組みもあります。指定海域のかきはそのまま生食用に出荷でき、条件付き指定海域のものは約20時間の浄化を経て初めて生食用になります。自主的なノロウイルス検査も行っており、陽性なら、のちの検査で陰性になるまで加熱調理用に切り替えます。ノロウイルスは国の規格基準の項目には入っていません。2025年、ノロウイルスは全国で462件、患者18,566人と、件数・患者数ともに病因物質の中で最多でした。ただしこれはかきに限らず、すべての食品の数字です。

ふぐ:認定された人が扱う

ふぐの危険は自然毒のテトロドトキシンです。厚生労働省のリスクプロファイルは、通常の加熱調理では分解されず、内臓、特に肝臓と卵巣に多く含まれるとしています。

日本は、誰が扱うかを管理することで対応しています。2019年10月31日付(最終改正2025年3月10日)の厚生労働省の通知が、ふぐ処理者の認定について国の基準を定めました。都道府県知事などが、ふぐを確実に処理できると認めた人です。

認定の際に必要な知識及び技術は試験により確認すること。 — 厚生労働省「ふぐ処理者の認定基準について」

実技試験では、実物で5種類以上のふぐを判別し、可食部と不可食部を取り分けます。通知は、中毒の多くが家庭での素人調理によるとしています。日付のないリスクプロファイルでは、近年の中毒は年に約10件、患者約10人で、死者が出る年もあります。2025年の概要は、同年7月にふぐの肝による中毒が続いたことに触れています。

鶏肉:国の生食基準はない

鶏刺しや表面を軽くあぶった鶏のたたきは日本の店で出されていますが、牛肉のような国の生食基準はありません。大阪府は卸売業者に、加熱が必要だと飲食店へ伝えるよう求め、広島県は事業者に生で出さないよう指導しています。鹿児島県には生食用鶏肉の独自の衛生基準があり(中身は読んでいません)、加熱用として販売される鶏肉を鶏刺しとして出してはならないとしています。

厚生労働省のカンピロバクターQ&Aは、2025年の発生を220件、患者1,226人としています。原因として疑われる食品に鶏のたたきや鶏レバー・ささみの刺身を挙げ、中心部を75℃以上で1分以上加熱するよう勧め、感染の数週間後にギラン・バレー症候群を発症することがあると注意しています。要となる一文はこれです。

「新鮮だから安全」ではありません。 — 厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」

生卵には別の決まりがあり、生卵と卵かけごはんで扱っています。

アメリカの公的機関の考え方

アメリカの指針は、おおむね「火を通す」の一本です。温度はアメリカの公式値が華氏なので、併記します。

食品アメリカの指針機関
牛・豚のステーキ、ロースト、チョップ63℃(145°F)、そのあと3分休ませるFoodSafety.gov
牛・豚のひき肉71℃(160°F)FoodSafety.gov
鶏肉74℃(165°F)。「生焼けの鶏肉を食べると食中毒になることがある」FoodSafety.gov、CDC
魚63℃(145°F)、または身の半透明さが消えてフォークで簡単にほぐれるまで。生食用の魚には冷凍の目安(スシグレード参照)FoodSafety.gov、FDA
かき殻が開くまで加熱。「ホットソースやレモン汁ではビブリオは死なない」FoodSafety.gov、CDC
ふぐ輸入時に留め置きの対象。日本からの例外が一つだけあるFDA 輸入警告16-20

(「」内は英語の原文を訳したものです。)CDC(疾病対策センター)は、汚染されたかきは「見た目もにおいも、味さえも、ほかのかきと変わらない」とも書いています。

ふぐについて、FDAの輸入警告16-20は、毒は「加熱でも冷凍でも壊れない」としています。そのうえで日本との取り決めにより、「トラフグ(Takifugu rubripes)1種だけを、『特別な機会』に限って」認め、出荷ごとに日本の公務員が検査し安全を証明するとしています。1988年の書簡交換についてのFDAのページによると、輸出できるのはトラフグの筋肉、皮、精巣で、認定された処理者(「ふぐ処理の専門家」)が処理したものに限られます。アメリカ国内でとれるふぐは別の扱いで、FDAの勧告は「大西洋中部でとれたもの」以外は出したり売ったりしないよう求めています。

英語圏のページが書いていること

鶏刺しと鮮度。 2015年のModern Farmerの記事は、カリフォルニア州バークレーの居酒屋風レストランのシェフの言葉として、鶏刺しは「とても新鮮でなければならない。すばやくしめて、すばやく冷やす」と紹介しています(英語の原文を訳したもの)。包丁やまな板を清潔に保つことも強調しています。扱い方としては大事ですが、厚生労働省の立場は、新鮮さは鶏の生食を安全にしない、です。なお同じ記事は、日本が2012年に牛レバーの生食を禁止したことは正しく伝えています。

ふぐはアメリカで「禁止」か。 2026年のChowhoundの記事は、特定の免許がなければふぐはアメリカで禁止されており、「レストランが輸入できるのは年に3回までで、特別な機会に使わなければならない」と書いています(英語の原文を訳したもの)。「特別な機会」はFDAの輸入警告と合っています。けれども、私たちが読んだFDAの文書に「年3回」の制限は見つかりませんでした。FDAが説明しているのは免許ではなく買い手の団体で、加盟店はFDAが承認した輸入業者からだけ仕入れ、店内で提供します。「狭い条件のもとでだけ認められている」というほうが、FDAの説明に近いでしょう。

馬刺しは「最も安全な生肉の一つ」か。 2025年のJapan Food Guideのページは、馬刺しを「最も安全な生肉料理の一つ」と呼び、2011年の厚生労働省「生食用馬肉の衛生基準」を挙げていますが、冷凍には触れていません。牛や豚との比較にも出典がありません。熊本県のいうとおり、この寄生虫による症状は一般に軽いものです。しかし厚生労働省が2011年に冷凍条件を出したのは、馬刺しが健康被害と結びついたからです。私たちが見つけた2011年の厚生労働省の文書はその冷凍の通知で、広島県が挙げる馬刺しの基準は1998年のもの、ページのいう名前の2011年の基準は見つけられませんでした。

よくある質問

アメリカでは牛肉や鶏肉を生で出せますか。 アメリカの公的機関は、生食の基準を示すのではなく、加熱を勧めています。鶏肉は74℃(165°F)、牛・豚のステーキは63℃(145°F)のあと3分休ませる、が目安です。この記事で取り上げたアメリカの資料が示しているのは、生で出すための条件ではなく加熱の温度です。

アメリカで日本のふぐは食べられますか。 狭い条件のもとでだけです。FDAの輸入警告16-20は、両国政府の取り決めにもとづき、日本産のトラフグ1種を「特別な機会」に限って認めています。出荷ごとに日本の公務員の証明が必要です。アメリカ国内のふぐは別の扱いで、大西洋中部でとれたものに限られます。

海外の記事が「日本では鶏刺しは安全」と書くのは正しいですか。 厚生労働省は安全とはしていません。鶏の生食に国の基準はなく、「新鮮だから安全」ではないと明言しています。

生食用と加熱調理用のかきは、鮮度が違うのですか。 広島県によれば鮮度は同じで、違うのは採取された海域です。

この記事の調べ方

日本のルールは、厚生労働省の通知、Q&A、リスクプロファイルと、千葉市、大阪府、広島県、兵庫県、宮城県、熊本県、鹿児島県、京都府の食品衛生のページによっています。アメリカについてはFoodSafety.gov、CDC、FDAを使いました。日本語資料からの引用は原文のまま短くとどめ、英語資料からの引用は当サイトで訳しています。1998年の馬肉の衛生基準と鹿児島県の鶏肉の基準は中身を読んでいないため、内容には触れていません。この記事は公的機関の説明を紹介するもので、医学的な助言ではありません。

参考資料

国の資料:

自治体の資料:

アメリカ政府の資料:

英語圏の記事の例:


この記事は、シリーズ英語の日本料理レシピは何を間違えているのかの一本です。

「安全と表示」のほかの記事