日本の台所はひとつではない

英語のレシピの「唐揚げ」は竜田揚げ? 片栗粉と二度揚げの誤解

英語圏のレシピでは「片栗粉をまぶして二度揚げ」が唐揚げの定義のように書かれることがあります。辞書や日本唐揚協会、農林水産省の資料で、唐揚げ・竜田揚げ・ザンギの線引きを確かめます。

ごつごつとした衣の、こんがり揚がった鶏の唐揚げ。レモンのくし切りと千切りキャベツが添えてある。

英語圏でよく読まれている唐揚げのレシピには、「醤油としょうがのたれに漬け、片栗粉(potato starch)をまぶし、二度揚げする」と書かれたものが少なくありません。片栗粉と二度揚げが、唐揚げを唐揚げたらしめる条件のように扱われています。

日本の資料を確かめると、線の引き方が違います。片栗粉が定義に入っているのは、むしろ竜田揚げのほうです。唐揚げそのものの定義はもっとゆるやかで、日本唐揚協会は小麦粉と片栗粉の両方を挙げ、唐揚げは「割と自由」だとしています。北海道のザンギは、農林水産省によれば味付けの濃い地域の呼び名です。

ただし、ここで使う定義は辞書、業界団体、農林水産省の食文化のページ、料理のレシピから集めたもので、食品の規格ではありません。資料どうしも完全には一致していません。

要点

唐揚げ竜田揚げザンギ
名前が示すもの製法:粉を薄くまぶして揚げる決まった下味と衣地域の呼び名(北海道)
衣小麦粉、片栗粉、またはその両方多くの辞書は片栗粉。小麦粉も認める辞書が一つ農林水産省のレシピでは小麦粉
下味さまざま。醤油、酒、しょうがが多い醤油ベース。みりんや酒を加えることが多い醤油ベース。一般的な唐揚げより濃いとされる
素材何でもよい。鶏、魚、野菜、ほかの肉さばと鶏が多い鶏(タコや鮭などにも名前が使われると農林水産省)
出典日本唐揚協会、辞書平凡社・小学館・講談社の辞書、キッコーマン農林水産省、日本唐揚協会

唐揚げは製法の名前

日本唐揚協会は、唐揚げを「揚げ油を使用した調理方法」と、それで作った料理と定義しています。衣については両方を挙げています。

唐揚げに使われる粉は「小麦粉」と「片栗粉」です。 — 日本唐揚協会

素材も鶏に限りません。魚や野菜、ほかの肉を同じように揚げたものも、協会の言い方では唐揚げです。

辞書の記述は似ていますが、細部は一致しません。ブリタニカ国際大百科事典は揚げ物を、衣をつけない素揚げ、表面に小麦粉やでんぷんをつける唐揚げ、天ぷらやパン粉揚げのような衣揚げの3つに分けています。一方、小学館の日本大百科全書(ニッポニカ)は、小麦粉を「たっぷり」まぶして揚げるとしていて、でんぷんには触れていません。唐揚協会は、小麦粉や片栗粉などを「薄くまぶして」揚げるとしています。粉の種類も量も資料によって違い、共通しているのは「素揚げでも衣揚げでもない、乾いた粉をまぶす揚げ方」という点です。

表記も一つではありません。協会は「唐揚げ」と書き、別表記として「空揚げ」を挙げています。「唐」の字は、外国から来たものが中国と結びつけて考えられたために入ったのかもしれないとしつつ、確かなことはいえないとはっきり書いています。

片栗粉の決まりがあるのは竜田揚げ

唐揚げを「割と自由」と呼んだ同じ協会が、竜田揚げについては線を引いています。

唐揚げは作るうえで割と自由なんですが、竜田揚げは調味料と粉が決まっています。 — 日本唐揚協会

コトバンクに載っている3つの辞書は、その決まりを次のように書いています。

  • 日本大百科全書(小学館):鶏肉を平たくして醤油に浸し、片栗粉をまぶして揚げる。豚肉、さば、まぐろ、かつお、鯨も向くとしています。
  • 講談社の世界の料理がわかる辞典:醤油、みりん、酒などで下味をつけ、片栗粉をまぶして揚げる。鶏肉とさばが代表的です。
  • 平凡社の世界大百科事典は例外で、衣を「片栗粉、小麦粉など」としています。この定義では小麦粉でもかまいません。

キッコーマンの「さばの竜田揚げ」は多数派に従い、醤油・砂糖・しょうがの下味に、片栗粉だけをまぶします。片栗粉は白っぽくまだらに、カリッと揚がると説明しています。名前の由来は紅葉の名所、奈良の竜田川で、醤油の色がついた赤茶色の揚げ色を紅葉に見立てたと、3つの辞書がそろって書いています。

英語のレシピが「片栗粉こそ唐揚げの決め手」と書くとき、それは日本の辞書の多くが竜田揚げについて書いていることにあたります。唐揚げは片栗粉を使ってもよい。竜田揚げは、多くの定義で片栗粉を使う。この違いです。

ザンギと各地の呼び名

ザンギ(北海道)

農林水産省は「うちの郷土料理」でザンギを取り上げています。

「ザンギ」は一般的な鶏の唐揚と比べ味付けが濃いのが特徴。 — 農林水産省 うちの郷土料理「ザンギ 北海道」

下味は甘辛い醤油だれと説明していますが、同じページのレシピには砂糖もみりんも入っていません。酒、醤油、こしょう、しょうが、にんにくに1時間から半日漬け、小麦粉を薄くまぶして揚げます。タコザンギ、鮭ザンギのように鶏以外にも名前が使われること、骨付きと骨なしがあり、北海道の店では骨なしが多いことも書かれています。

発祥は釧路とされます。農林水産省は1955年ごろ、末広の繁華街の鶏料理店で始まったといわれるとしています。唐揚協会も同じ話を紹介していますが、年は1960年です。名前については両者とも、中国の炸鶏(ザーギー、ザーチー)に「運」がつくよう「ン」を加えたという説を挙げています。農林水産省は一説として、協会は釧路のザンギの普及団体の説として紹介しています。年は確定していないと考えたほうがよいでしょう。

協会は、ザンギと唐揚げの境目はあいまいになり、いまは同じものとして扱われることが多いとも書いています。少し味の濃い唐揚げを指す、地域の言葉という位置づけです。

呼び名は分類に従わない

農林水産省の広報誌『aff』2016年12月号は、各地の鶏料理を紹介しています。そのうちいくつかは、別の名前を持つ鶏の揚げ物です。

料理地域農林水産省の説明
せんざんき愛媛県東予地方下味がよくしみた東予の唐揚げ
山賊焼長野県大きな骨付き肉をにんにく醤油に漬け、片栗粉をまぶして揚げる。「焼」とつくが揚げ物
手羽先唐揚げ愛知県名古屋市衣をつけず、低温と高温で二度揚げすることが多い
とり天大分県一口大の鶏を天ぷらにし、かぼす醤油かポン酢と練りがらしで食べる

名古屋の手羽先は「唐揚げ」を名乗りますが、先の百科事典の分類では素揚げです。大分のとり天は天ぷらの衣です。地域の呼び名は、辞書の分類どおりにはなっていません。

大分県の中津も唐揚げで知られています。大分県のサイトに載ったインタビューで、ぶんごや本店代表取締役の錦織伸好さんは、中津からあげは醤油、にんにく、しょうがでしっかり味をつけているのでたれがいらないと話しています。「中津からあげ」という名前が広まったのは、ご当地グルメのブームのころだったそうです。

揚げ物のなかの位置

日本の揚げ物は、油に触れるものが何かで分けると整理しやすくなります。

素揚げ唐揚げ竜田揚げ天ぷらフライ・カツ
衣なし乾いた小麦粉・でんぷん乾いた片栗粉(主に)小麦粉と冷水のぬれた衣パン粉
下味定義に含まないよくある醤油ベースで、定義の一部定義に含まない定義に含まない

天ぷらはぬれた衣で、日清製粉グループは混ぜすぎないよう強調しています(天ぷらと天つゆ)。フライやカツはさらにパン粉の層を重ねます。唐揚げと竜田揚げには、ぬれた工程がありません。

英語圏のレシピは何と書いているか

よく読まれている英語のページを3つ見ると、幅があることがわかります。

Just One Cookbook は、唐揚げに小麦粉と片栗粉(またはコーンスターチ)の両方を使っていて、日本の定義と合っています。FAQ では竜田揚げを片栗粉だけをまぶすものとしていて、これも日本の辞書の多くと一致します。

Chowhound の二度揚げの唐揚げは片栗粉100%で、記事によればレシピ開発者の好みです。小麦粉、とくに目の細かい薄力粉も「唐揚げには伝統的に使われる」と書き添えています(英語の原文を訳したもの)。好みの選択を説明したもので、誤りではありません。

Rasa Malaysia の「Japanese Fried Chicken」は、著者自身が竜田揚げだと書いていて、竜田川の由来も片栗粉の衣も正しく説明しています。ただ、次の一文は裏付けがありません。

「唐揚げにはごま油を使うので、ごま風味のフライドチキン(sesame fried chicken)と呼ばれることもある」 — Rasa Malaysia(英語の原文を訳したもの)

この記事で調べた日本の資料、つまり唐揚協会、農林水産省、味の素、日清製粉、キッコーマン、辞書のどれも、ごま油を唐揚げの要素として挙げていません。ごま油を入れるのはまったくかまわない工夫で、Just One Cookbook も下味に小さじ½を加えています。ただ、唐揚げに欠かせないものではありません。

二度揚げは必須か

英語のレシピの多くは、二度揚げを唐揚げの決め手のように扱います。日本の資料では、大きさしだいです。日清製粉グループによると、

  • 20〜25gほどの肉なら二度揚げは不要で、170°Cで約3分で十分です。
  • 30g以上なら二度揚げが向きます。大きな肉を一度で中まで火を通そうとすると、外側が焦げやすいからです。30〜35gなら、170〜180°Cで2分揚げ、4分休ませ、さらに1分揚げます。

下の味の素のレシピは一口大で、一度揚げてから最後に強火で仕上げます。Chowhound は約163°C(325°F)と約191°C(375°F)の二度揚げです。どちらも間違いではありません。

鶏のから揚げ(2人分)

味の素パークのレシピ「鶏のから揚げ」をもとにしています。当サイトでの試作はしていません。

鶏肉と下味

  • 鶏もも肉(骨なし) 1枚(250g)
  • 顆粒の鶏がらスープの素 小さじ1(味の素は自社の「丸鶏がらスープ」を指定)
  • 酒 小さじ2
  • しょうが(すりおろし) 小さじ1
  • 醤油 小さじ1
  • こしょう 少々

衣

  • 薄力粉 大さじ3
  • 片栗粉 大さじ1

揚げ油など

  • 揚げ油 鍋に深さ3cmほど
  • レタス、レモン 適量

作り方

  1. 鶏肉を一口大に切ります。ボウルに鶏肉、鶏がらスープの素、酒、しょうが、醤油、こしょうを入れ、汁気がなくなるまでよくもみ込みます。味の素は漬けおく時間を書いていません。
  2. 鍋かフライパンに揚げ油を深さ3cmほど入れ、160°Cに熱します。味の素はこれを低温としています。
  3. 揚げる直前に薄力粉と片栗粉を加えてよくもみ込み、手早く油に入れます。
  4. 中火で3〜4分、返しながら揚げます。
  5. 強火にしてさらに1分ほど揚げ、表面をカリッとさせます。一つずつ持ち上げて油をきってから取り出します。

アメリカ政府の FoodSafety.gov は、鶏肉はもも肉も含めて、中心温度74°C(165°F)を安全な最低温度とし、温度計で測るよう求めています。日清製粉は、中が生のときは電子レンジにかけるか、揚げ直すよう勧めています。

油の温度は資料によって違います。味の素は低温から始めて高温で仕上げ、日清製粉は170〜180°Cを通して勧めます。農林水産省は、肉や魚の標準を175〜180°Cくらいとし、温度が下がりすぎないよう、一度に入れるのは油の表面の半分ほどまでにするよう書いています。

衣の扱いも分かれます。味の素は揚げる直前に粉をもみ込みます。日清製粉は、粉をまぶしてから10〜15分おくと衣がなじみ、はがれにくく、カリッと揚がるとしています。キッコーマンは片栗粉の竜田揚げについて、すぐ揚げるよう書いています。使うレシピの指示に従うのがよいでしょう。

アメリカ農務省(USDA)の食品安全検査局は、油の火には決して水をかけないこと、キッチン用の消火器を使うか金属のふたをかぶせて消すのがいちばんよいことを注意しています。

竜田揚げにするなら

キッコーマンの「さばの竜田揚げ」(2人分)は、さばの切り身200gを、醤油大さじ1½、砂糖小さじ2(約6g)、しょうが汁ひとかけ分(約6g)に冷蔵庫で20〜60分漬けます。汁気を軽くふき、片栗粉大さじ4〜5をまぶしてすぐに揚げます。油は200mLの揚げ焼きで、170°Cくらい、合わせて4分ほど。油から出ている部分には油をかけながら揚げます。鶏肉の竜田揚げについては、辞書は同じ醤油の下味と片栗粉の衣を書いていますが、決まった分量はありません。


よくある質問

海外では唐揚げはどう理解されていますか。 英語圏では「Japanese fried chicken」とも呼ばれ、よく読まれているレシピのなかには、醤油としょうがの下味、片栗粉の衣、二度揚げで説明するものがあります。日本の辞書の多くが片栗粉を条件にしているのは、むしろ竜田揚げのほうです。

唐揚げと竜田揚げはどう違いますか。 日本の定義では、唐揚げは粉やでんぷんをまぶして揚げる広い製法の名前です。竜田揚げは醤油ベースの下味と、多くの辞書では片栗粉の衣という決まりがあります。唐揚協会の言葉では、唐揚げは「割と自由」、竜田揚げは「調味料と粉が決まって」います。

英語のレシピにあるコーンスターチは、片栗粉の代わりになりますか。 Just One Cookbook も Rasa Malaysia も、コーンスターチを代用品に挙げています。この記事で調べた日本の資料は小麦粉と片栗粉を使い、コーンスターチには触れていないため、食感の違いはここでは扱っていません。

二度揚げはしたほうがよいですか。 小さい肉なら不要です。日清製粉は20〜25gほどなら一度でよく、30g以上なら二度揚げを勧めています。


この記事の調べ方

定義は日本語の資料によっています。日本唐揚協会、農林水産省、コトバンクに載っている辞書・百科事典(平凡社、小学館、講談社、ブリタニカ)です。揚げ方は味の素、日清製粉グループ、キッコーマンの資料によりました。日本語資料からの引用は原文のまま、短くとどめています。作り方は味の素のレシピをもとにしたもので、当サイトでは試作していません。竜田揚げの衣やザンギの始まった年のように資料どうしで食い違う点は、その旨を書いています。アメリカの食品安全の数値は FoodSafety.gov と USDA によります。

参考資料

日本語の資料:

アメリカの食品安全:

英語圏のレシピの例:

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